【QK】15cmヒール【ymmt】 (ページ1)

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彼と初めて会ったのは学祭だった。ジェンダーレスをテーマとしてメイクをして中性的な服を着た一見男女どちらかか分からない店員の1人が私だった。令和になって男女差別とか騒ぐ割に団体行動だけは変化しない日本に溜息をつき、空きテーブルに客を誘導する。クラス主催のジェンダーレスカフェは思ったよりも好評で、あちらこちらで注文の声が聞こえる。
ただいまお伺いしますというありふれた記号を口から放ち、4番テーブルに向かうと何か面白いことでもあったのだろうか、男性3人組の客はゲラゲラ笑いながらビーフストロガノフを4人分注文した。12時を回ったからか、少しずつマナーの悪い外部客が増えてきたことにまた1つ溜息をついた。

｢あの、これさっきのお客さんが落として行ったみたいなんですけど…｣

前の客が落として行ったというハンカチを差し出してきた女性客はチラチラとこちらを上目で見る。

｢申し訳ありません、このようなものは受け取れない規則となっております｣

綺麗にプレゼント用に包装されたハンカチが落ちているわけが無い。箱詰めされたハンカチと隠れて入れられていた連絡先の書かれたメモ帳を丁寧に返却する。
クラス内では整っている顔を集めたからか、このような服だからか、昨日から男女問わずに店員に贈物をする客が多い。普通の差し入れならばもらうがもれなく連絡先もついてくるため、余計なトラブルを避けるために全て受け取り禁止となったのは昨日の昼だった。
サイテーと女性客の隣に座っていた女の子が口を動かす。自分達の都合に巻き込まないで欲しい。注文を通すふりをして厨房に逃げると苦笑いで肩を叩かれた。

遅い昼休憩を終えるともうシフトは無い。性別を迷わせる制服と暑さから逃げて人の少なさそうなサークルでもまわろうと校内を歩くと後ろから肩を叩かれる。道の分からない一般客かと思い振り返ると顔を仄かに赤らめた男子。後方にはそれを見守るように覗いている男2人がいた。

｢はい、なんでしょうか…｣

｢あの、お名前を教えてください！！！｣

人に尋ねる時はまず自分からでは無いのか。そんな言葉が頭をよぎる。勢いよく頭を下げた彼は私よりも身長が小さく、年下に見えた。一般客か。

｢どちら様でしょうか｣

｢あっ…やっぱりなんでもないです｣

名前を聞くとふと我に返ったように猛ダッシュで逃げる男子。いきなり話しかけてきて何だったんだ。後ろに居た男2人は苦笑いだった。足速いな。