自動販売機 ページ1
懐かしい香りが鼻をくすぐって、振り返る。
ほとんど必死にその香りの人を追いかけて、
その背中は、私の逢いたい背中ではなくて、
……ああ、違った、って息を吐いた。
いつまで忘れられないんだろう。
そんな自分に嫌気がさして、ため息を吐く。
朝の通勤ラッシュの時間。
こんなとこにいるはずもないのに。
こんなとこで会えるわけないのに。
慌てて追いかけたせいで、血の気が引く感じがした。
目の前が真っ白になる。
ああ、まずい、貧血だ。
フラリと体が傾いて、慌てて近くの自動販売機に手をついた。
「……あ！なんでっ！」
知らない男の人の声が近くで聞こえる。
じんわりと、視界が戻って行く中。
私を見下ろす人がいた。
「……え」
「だ、……大丈夫？」
心配そうに少し屈んで私を見上げる顔を、記憶の中で、探す。
……知らない人。
その人は屈んで自動販売機から冷たいミルクティーを取り出して、見下ろす。
「うーん……これあげる、飲んだら？顔真っ青だし……」
「え、え？何？え？」
「ごめん、お茶買いたいから、……手、退けて貰ってもいいかな……ごめんね？」
慌てて自分の手を見てぎょっとした。
私！ミルクティーのボタン押してる！
「あわわ！嘘！ごめんなさい！もしかして私押しちゃいました？」
「貧血？大丈夫？」
「大丈夫です、すみません、えっと、払います！待って！何を買いますか？」
冷や汗をダラダラかきながらその人の目を見上げたら、彼は、とても楽しそうに笑った。
「イタズラかと思った！」
「まさかそんな！」
「いいよいいよ」
彼はあはは！って楽しそうに笑いながらペットボトルのお茶を買った。
パキキ、と蓋を開けて、ごく、ごく、とお茶を飲む横顔につい目を奪われる。
ぷはー、うま、って唇を手の甲で少し拭った。
唇が赤く染まる。
その唇が私を見て弧を描く。
「俺紅茶飲まないから、君もそれ飲んだら？」
「え、でも」
「いいっていいって。ほら、飲みなよ、顔真っ青。座るとこなさそうだけど大丈夫？」
「よくあることなんで大丈夫です」
「えっ！こんなことよくやってんの？人がお茶買おうとしてるとこ目がけてボタン押してんの？」
「違います、貧血が！」
「あー、びっくりした！いつもやってんのかと思った！」
あはは！って楽しそうに笑って、周りを見渡して、ヤベ、俺声大きい？って口元を押さえた。
「お金払います、すみません」
「いいよいいよ」
その人はキランと笑った。
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ハル(プロフ) - よしのさん おはようございます。 よしのさんの言葉が好きです。チベットツナギツネも気になって検索してしまいました。笑いました。それだけで少し幸せ、ありがとうございます。 (2021年6月12日 8時) (
レス) id: bf2d6e97a5 (このIDを非表示/違反報告)
Kanchan(プロフ) - Shionさん、やっぱりそうだったんですね！あっちもこっちも心待にしているのも我ながら納得しました、私Shionさんの文章とか雰囲気とか持って行き方？とか本当に好きみたいです。これからもあちこち楽しみにしてます、ご無理なさらず楽しんで下さい！ (2018年10月17日 16時) (レス) id: 74394dd982 (このIDを非表示/違反報告)
もぐもぐ(プロフ) - あと、お話の展開が進まなくても、読み返しては文章のひとつひとつを反芻して楽しませていただいてるので、これからもshionさんの好きなように好きなタイミングで更新してくださいね♪＼(^^)／ (2018年10月17日 8時) (レス) id: 657fde68e2 (このIDを非表示/違反報告)
もぐもぐ(プロフ) - shionさんが大好きだとおっしゃってたもぐもぐ翔くんシーンがとってもリアルで可愛くて、shionさんの観察眼がさすがです！shionさんのお話はロマンス？もミステリーぽい怖い話も何でも面白くて引き込まれます。大好きです♪←ちゃっかり告白 (2018年10月17日 8時) (レス) id: 657fde68e2 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 初めまして？翔さんも主人公ちゃんもとーっても似たもの通しだと思いながら笑っちゃいましたｗｗｗお互い頭の回転が良すぎて考えすぎちゃう所とか？会話のテンポが心地良いです！ (2018年9月27日 18時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：shion
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月14日 8時
