実はマネもう一人いるんだよ【梟谷】

#16　おかえり ページ18

・


監「これ、合宿の同意書。
親御さんに出して合宿当日までに提出しろよ〜」


部活が終わり、手渡された同意書を手にAは顔をひどく歪めた。


『(お母さんかお父さん早く帰ってくればいいな…)』



両親は共働き、家に帰ってくるのもかなり遅いため合宿までにサインを貰えるかという不安しかない。



監「ちなみに言っとくが、この書類がなかったら合宿参加できないからな。」


監督の念を押すような言い方にAはさらに顔をひきつらせた。



「「「「はーい」」」」


ミーティングを終え、部員達がぞろぞろと体育館から去っていくなかAは未だ合意書を見つめている


赤「……A。大丈夫？」


『……ん。(今日は絶対起きとく。)』


その決意は見事遂行され、深夜０時をまわってもなおAは起きていた。


淡々とゲームにいそしむ中、ただ秒針を刻む音だけが部屋に響く。


『……ｶﾁｶﾁ』


もともとは勉強でもしようと思っていたが、ゲームの通知が鳴りまくってとうとうゲームに没頭。


欲に負けてしまった。


深夜をまわったというのに帰ってくる気配がない。


そこからさらに一時間後。


ｶﾞﾁｬｯ


玄関で鍵を回す音が聞こえた。


駆け足で階段を降りれば久々に見る母親の顔。


『…おかえり』


お母さんの方も久々に聞く娘の声にﾋﾞｸﾘと肩をゆらした。


「A……。ただいま。」


おそらく最近はあまり寝ていないのだろう。

目の下にうっすら隈が出来ていた。


夕飯を暖め直し、ついでにコーヒーを淹れる。


「ん。ありがとう」


先にお風呂を済ましてきたお母さんは椅子に腰を掛け、出されたコーヒーをすすった。

『ねぇ、これにサインしてほしいんだけど』


部活終わりのミーティングで配られた合意書をお母さんの前に出す。



「あぁ、これを書いてほしくて起きてたの。」


メモを置いてくれれば良かったのにと言いながらお母さんは少し残念そうに笑った。


すぐそこにあったボールペンを持つと、さらさらとサインをし印鑑を押してくれた。


「はい。」


『ありがとう。』


受け取った記入済みの合意書を見て思わずボソッと呟く。


『………あんま無理しないでね。』


「え？」


お母さんはもともと仕事大好き人間だったけど、それは私のためだってことも分かってる。


『…おやすみママ(・・)。』

「ｯ…」

こんな遅い時間、毎日こんな時間までは起きてられない。

でも、


『…(たまには良いかも。)』

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