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「ちょっとトイレ行ってくるアル」
バイキングが始まって30分くらいしたとき、神楽がそう席を立った。
その言葉に反応して「あ、あたしも」とAが席を立った。
新八はケーキを喉に詰まらせかける。何故嫌っているはずの神楽がトイレに行くのに同じタイミングで行こうとするんだ。
何も考えずにとりあえず声をあげてしまった。
「Aさん!」
「ん?」と振り向くAに、新八はその先の言葉が浮かばず視線を泳がせてしまう。
「ごめんね〜新八君。トイレの後でね!」
そう言って神楽の背を追いかけるA。新八の頬に残る冷や汗を見て、銀時は「ぱっつあん。童貞だからってさすがにそれはねーよ」と呆れ顔だ。
「厠に行く女引き留めるとか、そんなんだからモテねーんだぞ」
「ちがっ、僕は……!!」
たじたじになって言い訳すら思いつかない新八。
そんな2人に「ちょっといいすか」と割り込んだのは秋彦だ。
「確かあなた達がやってるお店って万事屋ってところでしたよね」
思わぬ質問をされた2人は顔を見合わせる。
状況が読み込めない2人に対して、秋彦は話を続ける。
「依頼をしたいんです」
***
用を足して神楽がトイレの個室から出てくると、手洗い場のすぐ横の壁にAが腕組みをしてもたれかかっていた。
誰かがいた気配を中から感じておらず、他に誰かが水を流した音もしなかったので、化粧直しでもしてもう戻っているものと思っていたので一瞬驚いてしまう。
「トイレ他にも空いてるアルよ」
警戒しながら神楽が発した言葉をAは微笑みで躱した。
「神楽、あたしのこと嫌いでしょ」
さらりと、まるでなんでもない話をするように。
一切の敵意を見せずにそう話しかけるAに、神楽はえもいわれぬ不気味さを感じた。
「そうアル。でも、そもそもお前が私のことを嫌ってるネ。自分のことを嫌ってる相手を好きになるヤツなんていないアル」
「あははっ!確かにそうだね」
何が面白いのか、声をあげて笑うA。神楽の表情が固いのを見て、その笑みはすっと引っ込められた。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2020年10月10日 22時