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展覧会の準備が押していることはさておき、今日はおでかけだ。
そうAは気合を入れる。日が明けて、今日の当番を午前中にやり遂げ、普段着を持ってないことに気付いてしまったため秋彦の部屋に来ていた。
「なんか着物貸してよ」
「は?」
すごく嫌そうな顔をされた。おおよそ姉弟子に向ける目ではない。
「なんで俺のなんだよ。自分の着ろよ。俺の男物だから地味な色しかねーぞ」
「なんであたしが自分の着物を持ってるとおもってるの?家出する度に借りてるじゃない」
「得意げに言うな。買え」
「借りれば済むものを買う必要性を感じない」
「いちいち借りられる側の気持ちを考えてほしい」
「わかりかねますね」
「なんだとさては人間じゃないな」
そんな会話をしながらAはすでに秋彦の押し入れを物色しはじめている。
「あいかわらず地味だなぁ」というAの呟きに秋彦はため息をつく。つくづく勝手な女だ。
「その地味な着物を勝手に毎回持っていくのはどこのどいつだよ」
「ごめんごめんコレ借りるね」
「待てよそれ俺が着ようと思ってたやつ」
「まじか。じゃあこっちにする」
「ん」
「着ていく服決めてるなんて珍しいね。秋彦、案外楽しみにしてたんだ」
悪戯っぽく笑うAを秋彦が「うるせーな」と言って部屋から押し出したのは、それが事実だったからだ。
***
数十分後、2人はスイーツバイキングの会場前に来ていた。
2人よりも遅い到着だった万事屋の三人に気が付いて、手を先に振ったのはAのほうだった。
「あ、来た来た〜」
「……秋彦さんはともかくなんでAさんまで袴なんですか」
困ったように尋ねる新八にAは「こいつに借りたから」と秋彦を指さす。
その指の動きに釣られるように新八が秋彦を見ると、目を反らされる。どうやら裏切って今日の予定を立てることに賛成してしまったことを申し訳ないと思っているようだ。
―――さては何か考えがあるんだな。
直感的にそう感じた。Aと神楽を同じ空間に長時間いさせるというリスクを伴ってでも、何かやりたいことがあるんだろう。
覚悟を決めるしかない。そう、新八も腹を括る。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2020年10月10日 22時