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―――なんだ、こいつ。
人と話しただけとは思えないレベルの疲労感に襲われる。
が、しかし。銀時はあることに気付いてしまった。
コイツ、女だ。手や顔の感じを見て確信した。
なんたって女がこんな子汚い恰好をしているんだ。それもこんな場所で。
なんだか厄介なことに巻き込まれる気がしてならないが、こんなところで飢えているらしい女を放置していくわけにもいかない。
ため息をつきながら彼女の腕を肩に回して立ち上がった。
―――目が覚めると、知らない天井だった。
などとありきたりな言葉が女の脳を過った。
見渡してみたところ、どうやらお酒を飲むお店のようだ。木造の、年季の入った建物だ。
カウンターの中には高齢の女性がこちらに背を向けてなにやら作業をしていた。
そして、自分が客用のソファに横になっていることもじきに理解できた。
身の回りのおおよそのことを把握したところで、女は先程まで見ていた夢を思い出す。
銀髪の男に助けられる夢だ。神のように見えた。神の遣いの動物には身体の白いものが多いと聞く。
まぁ、神なんてものがこの世に実在するはずもないよな、と考えたところで何者かの影が顔の上にかかった。
「おう、目が覚めたか」
その人影は、夢の銀髪の男だった。彼女は思わず飛び起きる。
「夢じゃない!?」
「おうおう。元気そうでなによりだ」
そう言って興味を失ったかのように、銀髪の男は座り直してジャンプを開いた。
なんだか夢の中の男とは別人のようだった。
「今、ババアが飯作ってっから。腹減ってんだろ」
「え、うん」
食事を用意してくれていると聞いたことに加え、大声で大げさに驚く自分との温度差を感じ、彼女は極まりが悪そうに大人しく座った。
膝に手を置いて落ち着かなさそうに視線を泳がせている。
そんな彼女の様子に、カウンターの中にいたこの店のオーナーであるお登勢は声をかけた。
「アンタ、帰るところはあるのかい?」
それは女にとっては困る質問だった。
「あるけどない」と、曖昧な返事を返す。
「何だそれ」と、隣にいた銀髪はジャンプから視線を女に移した。
「私、中島(なかしま)画塾の塾生なんだけどさァ」
「中島画塾って……江戸一の名門画塾じゃないかい!!」
お登勢は予想外の名前に声を裏返した。
銀髪は「なんだそれ」と話についてきていないようだったが。
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作者名:mire | 作者ホームページ:http://id27.fm-p.jp/456/0601kamui330/
作成日時:2020年10月10日 22時