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「でも最近、気になってる人がいるんだよね」
「……え？」
ああ、どうして。そんなの聞いていない！ 一体誰が。なんてことない顔をして、俺が危惧していた事態を告白したAは、あの時、恋をしたいなんて言ったあの時のように、少しばかり照れくささを表情に出していた。
「誰だと思う？」
「俺の知ってる人なん」
「うん。そう、だね」
知るわけがなかった。俺とAの共通の知り合いなんて誰もいないはずなのだ。だってAのことを他言したこともなければ、Aの口から名前が挙がったこともない。
「ん〜、分からんなあ。俺とか？」
「……」
「え……？」
冗談のつもりだった。口を真一文字に結ぶAは気まずそうに目を逸らして、やがて口を開いた。
「駄目なの？」
「だ！ ……めやない、けど」
ああ、この想いを伝えるべきか。でも、両想いになった瞬間にさようならなんて嫌だった。悔いが残れば、ここに留まってくれるだろうか。
そんな俺の考えなんて見透かしたようにAは笑った。
「返事は、いらない」
「……なんで？」
「だって、どっちでも変わんないし」
目を伏せたAに違和感を覚える。正体は直ぐに分かった。体が、透けているのだ。
だめだ、それだけは。腕を掴んで存在を確かめる。大丈夫、まだ、まだ触れる。
「A、すき、好きや。お前のことが好きだから、置いてかんでくれ」
「うん。ごめんね」
好きと言ったって、透き通ったって、Aは頷かなった。
「なんでっ、最後なのに！」
「さいごだからだよ」
穏やかに、大人びた笑みを浮かべたAはするりと握った手から逃げ出した。
「死んだ人間が、生きてる人と一緒にいられるわけがない」
「Aっ……」
「ばいばいだよ。素敵な想い出をありがとう、シャオくん」
あんなにもくっきりと見えていた姿が、どんどん薄らいでいく。見えないはずの向こう側の景色が、Aを通り過ぎて視界に映った。
愛しき薄情者め、もっとちゃんと、言葉に遺してくれたっていいじゃないか。
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作者名：脳内お花畑
| 作成日時：2024年1月19日 19時
