【ωrωrd!】童話を抜けた先【短編集】 (ページ6)

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朧な君/sha ページ6

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幽霊だ。特に根拠はないが、直感的にそう思った。足だってある、透けている訳でもない。なのに、目の前にいる彼女が人間ではないと何故だか理解した。
彼女も俺に気づいているようで、おや、と少しばかり目を見開いたあと、こてこてとこちらにやってきた。

「こんにちは、見えてる？」
「まあ……」

驚くくらい友好的だ。ホラーゲームでよく見る冷たい怨霊とは違い、彼女は随分とのほほんとした雰囲気をまとっていた。
そんな彼女に出会ったのが、確か……三週間くらい前？今ではすっかり適応して普通に世間話をするくらいの仲になった。

「Aって未練あるん？」
「未練？」
「いや、幽霊って未練あるから残るもんやと思ってたから」

Aは逡巡したように視線をさ迷わせ、やがて、えっとね、と少しばかり照れくさそうに笑った。

「私ね、恋してみたかったんだ」

こい。恋？聞き間違えなのかと考えて黙り込んでしまえば、もう！なんて声を上げた。

「馬鹿だと思ってるでしょ！」
「いや、そういう訳やなくて……恋？」
「うん。わたし、初恋まだなんだ」

恋のなにがそんなに良いのか分からないが、まあ、女の子ってそういうの好きなイメージあるもんな、と納得した。

「恋したら成仏してしまうん？」
「多分……？」

Aに一生俺以外の知り合いができなければいいのに。本音は喉の奥で引っかかって、いいやつ見つかるといいな、なんて嘘をついた。
なんてことがあったのが二ヶ月前。

幽霊を見える人間と見えない人間の違いはなんだろう。いわゆるシックスセンスなのか、あるいは波長なのか。霊としての強さ？霊感？
俺にはまったく分からないが、今でもAのことが見える人間は未だ俺以外にいないらしい。

「Aはさ、恋して何がしたいん」
「したいことなんてないよ。もう死んでるし」

存外さっぱりとした返答を返したAは、時折こうして死者であることを突きつけてくる。俺以外に見えないことを除けば、ほとんど人間と変わらないように見えるのに。

「まあでも、好きな人には好かれたいし、両想いだったら悔いはないかな」
「難しいで。一生成仏できひんやろ」
「私のこと見えてないと無理だもんね」

それもある。あとは、俺が邪魔をする予定だからだ。A以外の友人がいないわけではないが、俺はAとの会話が一番楽しかった。だから、それを妨げようとするやつなんていらないのだ。