選んでいいよ/zm ページ5
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真っ赤な苺が乗ったショートケーキ、ほんのりビターなショコラケーキ、キラキラ輝くフルーツが飾り付けられたタルト。美味しそうなケーキが沢山あって選べない！
「どれにしようかなあ」
「Aの好きなもん選びな。ほんで俺と分け合おう」
「え〜、二個に絞れないよ」
彼氏と腕を組んでショーケースの前で吟味していた。今日は付き合って半年の記念日である。
「でも、こういうの選ぶのが好きなんだよね」
なんてことを言ったのが数日前。
「好きなもの選んでええよ？」
並べられたのは縄、ナイフ、煉炭、エトセトラ……正体の分からない液体やらも置いてある。
「あの、えっと……？」
「はよ選んで」
「え、あの……え？」
意味が分からなくて床に並んだ凶器と友人……ゾムの顔を交互に見る。キャッチャーのようにしゃがみ込んで、ウキウキと待つような態度で私の顔を見つめるゾムは困惑する私を見て「あれ？」と声を上げた。
「選ぶの好きなんちゃうかったっけ」
「なんの話……」
「この間言うてたやん。ほら、ケーキ屋で」
ケーキ屋。半年記念で恋人と一緒に行っていたあのケーキ屋のことだろうか。でもあの時、ゾムは近くにいなかったはずなのに。いや、それよりも、今目の前の状況の方が理解できなかった。
「あの、これなに……？ なんで……？」
「いやさあ、もう我慢できひんなって」
そう言いながらナイフを手に取って、私の首筋に近づける。思わず固まって身動きが取れない。少しでも動いたら、そのまま首を切られてしまうと思ったのだ。
「別れてくれへん？」
「え、あ」
「別れるの嫌やったら、ここから選んで」
指をさした先は、並んだ凶器たち。えらぶ、選ぶ。目を逸らしていた予想は当たっていたらしい。私は今、死の選択を迫られている。ドッと心臓が鳴って、ドクドクと血を巡らせる。体全体が生きていることを強く主張していた。
「選ぶの好きや言うてたから色々揃えたんやけど、せっかくなら試してみる？」
「いっ、や、やだ」
泣きそうな顔で喉を震わせる私を見て、くく、と笑ったゾムは「なら」と続けた。
「分かるやんな」
「……っあ、わ、わかれる、から、だから、殺さないで、ください……」
しぼむように小さくなっていく声は、最後の方は蚊の鳴くようなものだった。
矮小な私を見たゾムはそれはもう嬉しそうに、「Aならそう言ってくれると思ってた！」と笑った。
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作者名：脳内お花畑
| 作成日時：2024年1月19日 19時
