寒い日のこと/os ページ3
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金木犀特有の鼻孔の奥にふんわりと広がる甘い匂いに香を聞く。金木犀にしては少し淡白な気もするため、ここからは遠いところにあるのだろう。
しかし一つおかしいことがある。金木犀は秋の代名詞と言えるほどの花で、開花時期も九月から十月、遅くても十一月までだ。年末も近付いているこの時期に金木犀が咲いているとはにわかには信じ難い。
嗅覚を頼りに金木犀を探すが、目立つ橙色の小さな花は見つからない。見える花木は白い小振りの花だけだ。葉は先端が尖り、縁も鋸に似ている。なるべく触れないように探そう。
「なにか探しとるん？」
突然後ろから声をかけられて吃驚した。振り向けば黒いスーツに深い緑のシャツ、さらさらと油気のない髪。極めつけはアヒル口のように可愛らしく上がった口角と下がった眉。
「オスマンさん……」
「帰ってきたら部屋からおらんくなっとるから心配したで」
茅色の髪を揺らしながらこちらに近付いてくる。今ここで一歩でも退けば、最悪を考えると二度と陽の目を見られなくなるだろう。
壁のように私の前に立ちはだかるオスマンさんから目を逸らしたいのを必死に我慢して、細められた目を見つめる。
「敷地内やったし今回は許したるけど、部屋から出たいときは俺の許可をとれって言うたよな？」
「……はい」
温度のない静かな淡々とした声がこわい。声を荒らげてくれたなら怒っていると一目で分かるのだが、変わらない一定の声色は感情が見えず未知ゆえのこわさがある。
「Aは誰の許可をとって外に出たん？」
「それは……」
ここに来るまでに見かけたデイジーを思い出す。青いデイジーは彼が着ていたシャツの色に似ていた。オスマンさんに囲われている私に同情していたのか、彼は比較的私に協力的だった。今日のオスマンさんの予定を教えてくれたのも、帰宅時間までなら敷地内くらい歩いても気付かれないと助言したのも彼だった。
「まあ大体の予想はつくから本人に訊くわ」
黙りこくる私に痺れを切らしたのか、オスマンさんは早々に質問を切り上げた。
「部屋に戻るで」
私の腕を掴み引っ張っていくオスマンさん。こちらの歩幅の考慮など全くされていないため、何度か躓きながらもオスマンさんに連れられる。
部屋に押し込むように入れられ、戸を閉められる。オスマンさんと密室で二人きり、私にとって恐怖でしかない状況だった。
相も変わらず感情が見えない声と、にこやかな笑み。合っていない声と表情が私を怯えさせる。
「なんで外に出たん？」
「外の空気を吸いたくて……敷地から出るつもりはなかったんです！ 本当です……！」
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作者名：脳内お花畑
| 作成日時：2024年1月19日 19時
