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君に捧げるカンタレラ1 ページ1
風に揺れる燻んだグリーンのリボンは遠い昔、摂津万里がAの誕生日にお祝いに贈ったものだ。中学の頃は髪を三つ編みに結ってリボンを付けていたが高校に入学してからちょっとずつヘアアレンジを覚え始めたAの今のお気に入りはフィッシュボーンハーフアップでこのリボンが変わらずAを彩る。
すれ違い様、一瞬ふわりと薫る万里の香水の匂いがAの鼻腔をくすぐり胸が高鳴る。幼い頃近所の公園を一緒に駆け回っていた自分に今の万里との関係を話しても信じてくれないだろう。いつからか少しずつ万里とAの距離が開いていき中学を卒業する春、両親に桜の前で写真を撮ろうと提案されその時視線を合わせるだけで口は聞かなかった。
「珍しいね、摂津くんが登校してるなんて」
「……そうだね。あ、今日の科学って確か実験だったよね」
万里が花咲学園に進学すると風の噂で聞き志望校を変更しようとするも両親と担任に反対され受験した結果うっかり第一志望に合格してしまった。外見に反して文武両道を形にしたような男、万里が落ちるはずなくまたお揃いの制服に袖を通す羽目になったのだ。ちなみに万里は裏でハイスペックヤンキーと呼ばれている。
友人と並んで化学室へと続く階段に消えていくAに向けて万里がぽつりと言葉を洩らす。
「……まだ付けてんのかよ、バーカ」
鈍臭くて自分の後ろを一生懸命ついてきた可愛い幼馴染。バカみたいに共有した時間は今はもう記憶に残るだけでぽっかり空いた距離を埋める術を知らず、視線で互いを追いかけるだけ。安物の緑のリボンが眩しかった。
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作者名：瀬戸 | 作成日時：2017年2月18日 22時
