Calm.3 ページ5
普通の島の、普通の家の、普通の子供だった。
優しい両親がいて、仲のいい友達がいて、仄かな恋心も抱いて。
きっとあれは、俗に言う”絵に描いた幸せ”だった、今はそう思う。
それが変わったのは、本当に突然だった。
あまりに美味しくない不思議な果実を食べて友達と苦い思い出を共有して帰ったその日。
”ただいま”と、その声は音にならなかった。
初めは、両親に聞こえていないだけだと思った。
”ただいま””ただいまってば””ねえお母さん！”
机を強く叩いて、キッチンで料理を続ける母に主張した時だった。
鳴らない音。耳に届かない自分の声。
あまりにも恐ろしくなって、自身が消えてしまったような気がして母に飛びついた。
ただ声が出なくなっただけならよかった。
すぐに両親は病院へ連れて行ってくれたが、医師は「音が消えるなんて症状は聞いたことがない」と言うばかり。
初めはずっと心配していてくれた両親も徐々に私へ恐怖を覚えるようになり、母は泣き、父は怒り、友は去り、恋は消えた。
平和な日常などは最早端からなかったのだと言わんばかりに、それは一変してしまった。
誹謗、中傷、暴力、喧嘩、何もかもが私が原因で引き起こされた。
あまりにも、あまりにもそれが重く辛くのし掛かってきて。
逃げ出したのだ。
皮肉にもこの体質が幸いし、誰にも気づかれることなく商船に潜り込み、島から逃げたのだ。
だが、それすらも悪手だった。
続く (更新停止中)
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