二十七《urata side》 ページ28
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《urata side》
昔、ほんとに随分昔のこと、今床に座って俺の膝に頭をもたげている彼女に告白されたことがある。
……いや告白と言ってもかしこまったものではなく、ウイスキーの勢いに任せてポロリとこぼれたものだった。
酒に弱い彼女とふたりきり、忘れもしない嵐の日。外は人の目があると宅飲みをしていて、朝から怪しかった雲行きがどんどんと近づいてきて、ロックのショットの4杯目が空いた頃に雷が轟き出した。
そろそろ帰ろうかと考えているうちにAが俺の袖を掴んで、『もう行くんですかぁ…?』と不安そうに眉を下げた。
配慮の鬼である彼女から事前に『相談がある』と言われ、あまり人に頼らない彼女にしては珍しい。余程のことがあったに違いないと了承した手前帰る訳には行かず座り直した。
間延びした語尾と曲がった背筋に酔っているのだと分かってはいたが、いつもは聞き手の彼女がたくさん話してくれているのが嬉しくて適度に相槌を打ちながら聞いていた。
『うらたさんは、好きな人っていますか』
う『…え、いない、けど』
『そうですか。あなたほどの人でも』
う『いやどういうイメージだよ。お仕事忙しいですからね。恋愛してる暇ないの』
『……そうですか。やっぱ余裕って大事ですよね。恋愛に限らず、お金とか友達とか、仕事とか趣味とか、何事も余裕って大事ですよね』
う『どしたの。さっきの変化がどうとかって話と関係すんの?』
『いや、私ってほら、凡人じゃないですか』
う『え、そんなことないけど。哀歌とか悲歌と言えば【とかくん】って言われてるし』
『あれは製作者の意図をくみ取って自分の経験の周りに張りつけてるだけです…』
う『その発言がもはや非凡人なんだけど…』
『それでね、コメ欄見たら[とかくんの歌声いっつも悲しくなるからメンタルきつい時は聞けない]って言われてて、そしたらそのコメに[わかる、余裕ないとうっかり泣く]って来てて、余裕ある人なんてひと握りだし、これじゃあ困るなって』
う『困るって…』
『だからなんか変化しようかなって。手始めに恋愛ソングでも』
う『ふーん、それで[好きな人いますか]か。別に今のままでも良くない?それだけ響いてるってことでしょ。とかくの歌声って心に染み込んでくるから共感性があるんだよ。オリジナルでもない歌ってみたで泣かせるってすごいことだと思うけど』
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ななき。(プロフ) - かんずめさん» かんずめさん!お久しぶりですー!だいぶご無沙汰しておりました。なんて嬉しいお言葉!好きなものを好きなようにかける環境があるのもかんずめさんのような読者さんがいてくれるおかげです。コツコツ書いていこうと思います!今作もよろしくお願いします! (2021年12月26日 23時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - しおさん» お久しぶりですしおさん!長らくお待たせしまってすみません…。そう言っていただけると自分のペースで頑張れます!色んなところで雪降り出しましたね。たくさん服着込んで作品作り頑張らせていただきます! (2021年12月26日 23時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - 緇さん» はじめまして!コメントありがとうございます。たくさん読んでくださっているんですね?!ご期待に添えるように今回もがんばらせていただきます!(貴重なご意見ありがとうございます(´▽`人) (2021年12月26日 23時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
かんずめ(プロフ) - お久しぶりです。久々にななきさんの新作が出て舞い上がりました。ななきさんの作品が読めるだけでも嬉しいので、躊躇なく好きなように投稿してください!どの界隈の作品も好きなので!語彙力がなく上手く伝わるかどうか不安なのですが、無理はしないでください。 (2021年12月23日 20時) (レス) @page1 id: 6f646e69ca (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - ななきさんの作品が読めるこの環境だけで大変ありがたいことなのでどうぞお好きなようにしてください!毎日寒いですし、お体には十分ご留意くださいね (2021年12月23日 19時) (レス) id: 3a34b78acf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ななき。 | 作成日時:2021年12月23日 17時