FRIEND ZONE【VTuber】

七《kuzuha side》 ページ7

苦しさは喉を締め付け籠ったように。
寂しさは上を見上げて涙を流さぬように。

表現力が凄まじい。ここまで歌ひとつでドラマを見せるのかと驚くほど。


Aの声は湖みたいだ。澄んでいるのに潜れば潜るほど、得体の知れないものが潜んでいる感覚がする。




「───ありゃ、85っすね。気持ちよく歌い過ぎたかにゃ？」

葛「じゃあ俺な。てにをはさんのヴィランを、歌いまーす」

「なんやて？めっちゃ聞きたいやつやん。ほんまか葛葉ぁ」

葛「ほんまです。ちょっと黙ってて」

「ガチモード入りましたよ葛葉さん。みなさん、心して聞きましょ」




がなって、抜いて、引き伸ばして、高く、低く、優しく、怪しく……。汗をかくくらい夢中に歌った。

目を開けた瞬間入ってきたAの顔はなんとも言えない顔をしていた。驚いているのか、焦っているのか、笑っているのか、喜怒哀楽とその他多数を混ぜたような。




葛「───なに？」

「…いや、もう、ライブじゃん」

葛「あー…まあ、先にあんなん歌われたらやるしかないでしょ」

「神回きたこれ。次何歌う？あれ歌おうぜ、フィクサー」

葛「あーいいな。あとあれも、フラジール」

「あ、最高。最適解来ちゃった。ん？なに叶さん……え、あ、そうだ配信。ごめん皆、配信ここまでだわ。優勝は葛葉。これはもう完敗よ」

葛「いやいや、Aがあそこまで歌わなかったらここまでマジで歌ってなかったわ。お前のあの表現力、感情の乗せ方、周知の事実でAが勝ちっしょ」

「お前何言って……誰がどう聞いても葛葉だって。もう勝ち負けとかのレベルじゃない。並べないわ」

葛「いやかってに決められても困るんですけど。機械じゃ判定できないやつじゃん、Aの歌い方の良さって」

「は？」

葛「あ？」

叶「まってまってまって。ふたりともやめな。勝負は引き分け。甲乙つけられないってのはこの事だよ。みんな優勝ね。ほら、締めの挨拶して」

「……えー、みなさん、本日はありがとうございました。一夜限りの歌生勝負如何したでしょうか。権利上アーカイブは残せませんが逆によかったわ。聞けた人まじでラッキーだと思う」

葛「それな。もったいない。まじで、もっと歌えよ」

「キャッチしてブーメラン」

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