FRIEND ZONE【VTuber】

四十三 ページ43

ドライヤーの音が消え、立ち上がろうとすると腕を引っ張られる。ボスっと音を立てて座らされたのは彼の長い足の間。これまた長い腕を首に回される。

これは世にいうバックハグと言うやつでは。




葛「……まだ残ってる」




グリグリと頭を揺らしてる。耳元で喋るからくすぐったい。




「そんな臭う？煙？酒？」

葛「男」




予想外の回答に思わず黙ると葛葉は甘い声色で、拗ねたように続ける。




葛「ほかの男の匂いさせすぎ」




葛葉の声好きな私としては話してるだけでご褒美なのだが、さすがにこれはくる。離れようと身じろぐが全く離そうとする気配はない。無理無理無理。これはきつい。心臓が持たない。




「あ、あの、葛葉さん…？ゼロ距離長期戦はちょっと…あのー…」

葛「今日に関してお前が俺になんかいう権利ないから」

「………っすよねー……」




制そうとくるとロンパンチが返ってきた。怖い。いよいよ動けなくなったことをいいことにすりすりと首や髪に顔を近づける。

心臓の音聞かれてないだろうか。いや聞かれてるな。聞かれてるよなー。そりゃあ吸血鬼だもの。聴覚もいいに決まってる。




葛「鼓動早、興奮してんの？」




ほらぁー。でもここで負ける訳にはいかない。カッコつけに関しては様々な女性ライバーにお墨付きを貰ってんだ。あと威厳とかあるし。




「は？よゆーよ。もう超よゆー。どんとこーい」

葛「へー、余裕なんて言われちゃ、そうじゃなくさせたくなるよな？」

「う、うそっす、ごめんなさい…ゆるしてつかぁーさい」

葛「謝ればいいと思ってんの？」

「なんで責められてんの僕。そりゃあ緊急事態発生してますからね。鼓動くらい早くなりますよ」

葛「ははっ、おめしれー」

「なんも面白くない。なんも面白くないよ。ね、うん」




言葉が出てこない…。いつもの語彙力はどうした。思い出せ。剣持刀也とのラップバトルを思い出せ。

あかん、煽りしか出てこない。ここでの煽りはさすがにプレミだって僕知ってる。打つ手なし。これは飽きるまで待機の方向で行こう。保つかな…。




「ひゃっ…！」

葛「…へぇ、Aってそんな声出せたんだ」

「ちょ、ちょっと待って、くすぐっ、…たいから……いったん…っ…」




「んふふ」と笑ってばかりの葛葉。やわい唇と熱い舌が首やら耳やらを這う。なしじゃんこういうのはさ。だいぶマズイって…こういうのってさ…。

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