伍拾壱 ページ3
チキンカレーとジンジャエールを頼んでカウンターに並ぶ。久しぶりに見たまふゆさんはさっきの強気な感じはどこへやら。
一気に落ち着かない様子できょろきょろしてる。カランとグラスの中で氷が鳴って、それを合図にまふゆさんが話しかけてきた。
ま「もう、お店はやらないの？」
「お店のこと自体は一応トウカさんに言ってる」
ま「だれ？」
「あ、そっかあれはそらさんか。トウカさんって言うのは前にあそこで働いてた人で、Aにパン作りを教えてくれた人。別の場所で隠れ家的カフェやってるけど、あの人あれで責任感強いから戻ってくる可能性は高いかな」
ま「そうなんだ。じゃあこれからも……」
「いや、Aはやめる」
ま「え、どうして？もしかして独立？」
「ないない。もともとトウカさんが海外に行く時にヤコウに次の定員が来るまでの繋ぎとして頼まれただけだから。結局新しい定員は入らなかったけど、ヤコウがいないなら続ける理由もない」
ま「そっか」
「ヤコウには恩があるから。だから今もこうして店を閉めてヤコウのお世話をしてる。それも娘さん夫婦が帰国したら終わりだし、それからのことはその時考えるよ」
ま「自分の店を持つことは今も考えてない？」
「ないない。経営とか大変そうだし、誰かの下で言われたことやってる方がずっと楽」
ま「楽に生きていいの？」
思わぬ言葉にチャパティをちぎる手が止まり、とっさに声が出なくなる。
「ひどいこと言うね。苦しみながら生きろって？」
ま「そうじゃない。僕は、悩み考えることを放棄して生きていくことがいいとは思えないから」
「……一理あると思うよ。達成感とか使命感とか、そういうのがほしいんだ、みんな。でもAはいらない。そんなものほしくない」
ま「どうして？」
「さっきから質問多いなぁ…。どうしてそんなに構うの、めんどくさいんだけど」
ま「好きだよ」
一瞬、時が止まったように錯覚した。お店の中の一切の音、忙しなく動いていた店主に、スパイシーな香りさえも、なにもかもがジオラマの世界のように静止した。
ま「好きだからだよ。君が」
まふゆさんの真っ直ぐな瞳に魅せられる。照れなのか、それとも少し辛いカレーのせいか、少し色づいた頬にひとすじ涙が零れる。
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ななき。(プロフ) - ゆうさん» 私の作品で笑って泣いていただけているのかと思うと私もぐっときます！コメント感想ありがとうございます！ (2021年12月28日 22時) (
レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - めっちゃ面白いです。本当に泣きました。完結おめでとうございます。 (2021年12月27日 21時) (レス) @page21 id: ff8e58fd81 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - ロツイナさん» 最後までご覧くださりありがとうございます！大好きだって言ってもらえて終わりを惜しんでもらえるなんてとても嬉しいです！他の作品も良かったら楽しんでってくださいませ！ (2021年9月19日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ロツイナ - 完結おめでとうございます！ずっと大好きな作品です、終わってしまうのはちょっと切ないですが、最後までこの作品を読んでいて楽しかったです！ありがとうございました! (2021年9月17日 18時) (レス) id: 05ff15d5eb (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - かんずめさん» かんずめさん、コメントありがとうございます！いつもほんとに励みになっています！満足していただけて光栄です。これからもそう思って貰えるようにがんばりますね！次回作も良ければみてやってくださいませ！ (2021年9月16日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年8月21日 22時
