陸拾参 ページ15
そらさんの家に着いて、防寒具を取りながら近くのソファーに座った。この人らしいカジュアルシックな部屋。
そ「ん、今朝の市で買ったばっかのやつ。コーヒーは不味くても比べんなよ」
ドーナッツと、犬のシルエットが入ったマグカップが乗ったトレーが目の前に置かれた。
「そらさんも来てたんだ、海市」
そ「ん？うん。ちょくちょくね。魚とか野菜だけじゃなくて、パン屋とかコーヒー豆の量り売りとか、チョコレート屋さんなんかも来てて面白いよね。アンティークの家具とか。とても朝だけじゃ回りきれない」
「……ほんとに、行ったんだ」
そ「たまたまよ」
L字のソファーの折れてるところに座ってドーナッツを食む横顔はやっぱりどこか不思議な曖昧さを感じさせる。
白い肌もうねった黒髪も淡い色の唇も、彼を構成する要素はどれも綺麗。掴めない人だと思っていたのに、案外単純な人なのかもしれない。
「おいし…」
そ「何味？」
「かぼちゃ。たぶん砂糖使ってなくてこの甘さだしてる」
そ「これはなんだろ。にんじんかな」
「野菜ドーナッツか」
そ「リンゴとかいちごとかもあったね。一個づつ買ってきたから色んな味楽しめるよ」
「へぇ……」
そ「今度作ってよ」
「…Aが？」
そ「うん。久しぶりにAちゃんのパン食べたい」
「………じゃあ、ベーグル作るよ」
そ「得意なの？」
「初めて作ったから、たくさん練習した」
そ「なるほど、楽しみだな」
目を擦ると「眠い？」と聞いてきた。頷けば「ベッド使いな」と案内してくれる。
「そらさん」
そ「ん？なあに」
「………そ」
そ「うん」
「そばに、いてほしい」
そ「え、でも……」
そばにいるだけで誰かを傷つける。それでもひとりは嫌なんだよ。
傷つけたくない。笑顔でいてほしい。誰かの幸せの前に自分の存在はちっぽけなものだ。だいたい人を苦しめることで自分の幸せは消えていくんだから。
「……なんちゃって。さすがに迷惑だよね。なんかA今日おかしいわ。ごめん、寝てるよ」
そっぽを向いて布団を口元まで引っ張ってくる。ぎゅっと目をつぶりパンの香りを思い出す。やわらかい風、小さな木漏れ日、小鳥の声も。
すると背中に温もりを感じた。「寝るまでね」とそらさんはつぶやいて、自分の背中を合わせて寝っ転がった。
カーテンの隙間から見える青い空に目を細めて、まぶたで光を感じるように目を閉じる。
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ななき。(プロフ) - ゆうさん» 私の作品で笑って泣いていただけているのかと思うと私もぐっときます！コメント感想ありがとうございます！ (2021年12月28日 22時) (
レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - めっちゃ面白いです。本当に泣きました。完結おめでとうございます。 (2021年12月27日 21時) (レス) @page21 id: ff8e58fd81 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - ロツイナさん» 最後までご覧くださりありがとうございます！大好きだって言ってもらえて終わりを惜しんでもらえるなんてとても嬉しいです！他の作品も良かったら楽しんでってくださいませ！ (2021年9月19日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ロツイナ - 完結おめでとうございます！ずっと大好きな作品です、終わってしまうのはちょっと切ないですが、最後までこの作品を読んでいて楽しかったです！ありがとうございました! (2021年9月17日 18時) (レス) id: 05ff15d5eb (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - かんずめさん» かんずめさん、コメントありがとうございます！いつもほんとに励みになっています！満足していただけて光栄です。これからもそう思って貰えるようにがんばりますね！次回作も良ければみてやってくださいませ！ (2021年9月16日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年8月21日 22時
