陸拾弐─ドーナッツ ページ14
▪▪▪
どれくらい走っただろう。喉の内側を掴まれたみたいに痛い。引きつったように渇いている。上手く息が出来なくて、肩で呼吸をする。吐く息が熱いのに、手足の先は感覚はない。
前にも確か、こんなことがあったっけ。うだるような夏の暑い日だった。今は雪でも降り出しそうな空気の冷たさなのに。あの頃から何も変わってないな。
……いや、もう随分前から、心の中ではこうやって逃げていたじゃないか。
あぁ、このまま誰もいない場所に。誰の声も聞こえないところに。
そ「Aちゃん？」
すれ違った人に声をかけられた。よたよたと数歩進んでから、ガクガクと震える足で振り返ると、そらさんがいくつかの紙袋を下げて立っていた。
「そ、ら…さ……ッ……」
そ「え、え、どうしたの？ そんな息切らして。どっか痛い？体調悪い？」
「そら、さ……そらさん……っ…」
これは安堵だろうか。それとも羞恥だろうか。どんどんと滲んでいく視界を遮るようにそらさんが自分の目の前に立つ。顔をあげられない。
そ「触れるよ」
そう囁くように行ってからゆっくりと抱きしめるそらさん。紺色のコートで包み込まれる。
そ「泣いていい。ちゃんと泣いて」
それだけ言ってそらさんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。暖かくて、大きくて、優しい手。
絶え間なく涙は零れる。コートに顔を埋めて声を上げて泣いた。くぐもって自分でもよく聞こえない。
ほっといてと言うことも、突き放すことも出来ないほどボロボロだ。抱きしめることも下手で、上手く泣くことも出来ない自分を、そらさんは否定しないでくれる。
面倒くさいことは嫌だろうに、お節介焼きなお兄さん。
気づいたらまふさんのマンションの前にいて、ぼうっと高い建物を見上げる。星は見えないくせに、くすんだ青空と雲の間にぼんやりと白い月が揺れていた。
そ「どうする？」
「………」
そ「ファミレスでも行く？もうそろそろお昼だし」
「………」
そ「……うちくる？」
こくんと頷いたくせに動こうとしない自分をそらさんはひたすら隣で待ってくれた。やがて視線を彼の水晶玉のような瞳に移してコートを摘む。微笑んだ気配がした。
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ななき。(プロフ) - ゆうさん» 私の作品で笑って泣いていただけているのかと思うと私もぐっときます！コメント感想ありがとうございます！ (2021年12月28日 22時) (
レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ゆう - めっちゃ面白いです。本当に泣きました。完結おめでとうございます。 (2021年12月27日 21時) (レス) @page21 id: ff8e58fd81 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - ロツイナさん» 最後までご覧くださりありがとうございます！大好きだって言ってもらえて終わりを惜しんでもらえるなんてとても嬉しいです！他の作品も良かったら楽しんでってくださいませ！ (2021年9月19日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ロツイナ - 完結おめでとうございます！ずっと大好きな作品です、終わってしまうのはちょっと切ないですが、最後までこの作品を読んでいて楽しかったです！ありがとうございました! (2021年9月17日 18時) (レス) id: 05ff15d5eb (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - かんずめさん» かんずめさん、コメントありがとうございます！いつもほんとに励みになっています！満足していただけて光栄です。これからもそう思って貰えるようにがんばりますね！次回作も良ければみてやってくださいませ！ (2021年9月16日 22時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ななき。 | 作成日時：2021年8月21日 22時
