肆拾参 ページ44
瑠「ライブはまたお金貯めてチケット取って来ればいいけど、体調の悪い人に手を差し伸べられるのは今しかない。コンちゃんを放っておく訳にはいかない」
瑠璃子さんは立ち上がって会場を指す私の手を掴んだ。
瑠「……ほら、まだ手が冷たいじゃん」
「………そんなのあなたにはどうでもいいことでしょ?」
瑠「どうでも良くないよ。こうして出会ってしまったんだから、ほっとけない」
瑠璃子さんの目は私を捉えて離さない。力強い瞳に目をつぶりたくなる。
瑠「私はうらたさんに誇れる人でありたい。ここで君の手を離したら後悔する。罪悪感を持ったまんまじゃライブは楽しめない。これは私のため。私のために君を助けたの」
「………」
瑠「だから、泣かないで…?」
そう言われて掴まれた手の反対の手で頬に触れる。生ぬるい水滴が指先を濡らした。
瑠「だいじょうぶだよ。だいじょうだから。ごめんね……」
なんで彼女が謝らなくちゃいけないんだ。どうして私はいつも守ってもらってるんだ。
動け。さっきの俊足はどうした。早く彼女を彼らの元へ……。
──『風に任せてみろ』──
大きな風が私たちの間に吹いた。フードが勢いよく後ろに引っ張られて取れる。一気に視界が広くなって光が眩しい。思わず目をつぶる。
瑠「すごい風だったね〜。目に入んなかった?大丈夫?」
片目ずつゆっくり開けて、私の顔を覗き込む。美しい人だと場違いなことを思う。彼女にはもっとふさわしい笑顔があるはずだ。
「……瑠璃子さん」
瑠「なあに?」
「私の手を取って」
瑠「え?………はい」
「よし、行こう」
瑠「えっ、えぇ…?!」
物語が進む時は、主人公が変わる時は、いつだって風が吹く。
──『風が吹いたら構わず走れ』──
臭うはずないタバコとコーヒーの香りが鼻の奥から喉に入ってくる。いつもいつもうるさいよ、言われなくても分かってるってば。
瑠「……ちょ、まってコンちゃん!私もう23なのよ!」
「急いで瑠璃子さん!」
瑠「高校上がりの子の体力にはついていけないって…はぁ…はぁ…」
84人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
甘蜜 蜜華(プロフ) - あ、あぁぁぁぁ!!!好き。ななき。さんの作品好きです。もう全部好きです。 (2021年1月24日 9時) (レス) id: 80388bac17 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - しおさん» ありがとうございます!返信遅くなり申し訳ない…!少しですが楽しんでくだされば嬉しいです!今回もよろしくお願いしますね! (2021年1月23日 18時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
しお(プロフ) - 新作…それも、それも、ド派手で愉快な3人組が…!!!!!!!!今作の世界観を構成する要素として彼らが選ばれたことが本当に嬉しいです、楽しみにしてます〜!! (2021年1月16日 0時) (レス) id: 33c3a138b0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ななき。 | 作成日時:2021年1月15日 14時