参拾陸 ページ38
母「それは…」
「この家を出て10年くらい経ちますね。私は貴方の顔も声もすっかり忘れていましたが、貴方はどうでしたか？ろくすっぽ覚えていなかったのではないですか？私がこの家にいた時でさえ顔もろくに見てくれなかったですもんね」
母「A、お母さんは………」
「私は自分の手でお金を稼いでご飯を作って、洗濯をして掃除をして、もうひとりで生活しています。すっかり充実していますよ。窮屈なだけのこの家とは違ってとても自由です」
母「………」
「貴方の自慢の子供になれなくてごめんなさい。…さようなら、お母さん」
襖を占め、首元のネクタイを緩めてスタスタと玄関に向かう。
未春「よいのですか、Aさん」
「未春さん……」
未春はうちの使用人。私に『奥さまが呼んでいる』と電話をかけた人だ。歳は確か私の6つほど年上だったか。小さい頃からお世話になってきた。
「なにが？」
未「分かっているでしょう？」
眉を下げて、ただそれだけ言う。
「……なんでお母さんが急にお見合いだとか言い出したと思う？」
未「娘が年頃なのに結婚していないから、でしょうか」
「その通り。じゃあなんで私が結婚してないんだと思う？」
未「相手が、いないから？」
「おぉ、ストレートに言うね。まあ確かにそうだけど。あとは単に興味が無いから。私には芝居と踊りとさーちゃんさえいればいい」
未「………Aさん」
「未春さん、もう呼ばれても家に来ないから。お母さんも出来損ないの親不孝な子供のことなんて忘れて老後を楽しんだ方がいい」
未「本当に、よろしいのですか？」
「これで後悔するほどこの家に未練がないんだよ。悲しいことにね」
思い出と呼べるものなんてさーちゃんと遊んだこの庭くらいだ。
「そうだ……未春さん、スコップ持ってきてくれない？クワでもいいよ」
未春「え、は、はい。只今」
そ「あ、おかえり」
「ただいま戻りました〜」
そ「どうだった？」
「ばっちりさよならしてきましたよ。『貴方に子供はいない』って」
そ「ふーん。俺ほんとに行かなくてよかったの？」
「えぇ、むしろ行ったらえらい目にあってましたよ。ここまでついてきてくれただけで感謝です。今度なんか奢りますね」
そ「俺も観光できて楽しかったから。………それは？」
「あぁ、これ。あそこにあった唯一の思い出、ですかね」
そ「へぇ…」
「さ、帰りましょー。灰色のくすんだ東京へ、レッツゴー」
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ななき。(プロフ) - Noel*26さん» ありがとうございます！苗字気づいてくれる人がいるとは…！今までのは英数字シリーズで、この作品はノーラベル(漢数字)ってことにしようかと。タイトルも自由につけちゃおうかなって笑 毎回着いてきてくださって嬉しすぎますよ！いつもありがとうございます(´▽｀) (2020年9月23日 9時) (
レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
Noel*26(プロフ) - 新作おめでとうございますーーー「長聿」で「肆」なのエモくていいですね…今回は題名でななき。さんだと分からずななき。さんファンとして少々恥じている今日此頃です 体調にはお気をつけて下さいノシ (2020年9月23日 4時) (レス) id: 2cec6f84ed (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - LiLi Kaさん» コメントありがとうございます！そんなそんな照れます(//▽//)ご期待に添えるようがんばりますね！ (2020年9月19日 12時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - ameさん、コメントありがとうございます！そうなんですよ(笑)夏終わったのになつのおはなしをかきはじめるという。まだ夏は終わっちゃいねぇぜ！ということにしといてください(-_- (2020年9月19日 12時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
ななき。(プロフ) - しおさん» しおさん追いかけて下さりありがとうござます！今回もがんばらせていただきます！ (2020年9月19日 12時) (レス) id: 42df20d673 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ななき。 | 作成日時：2020年9月16日 18時
