ごじゅうご ページ7
「最初は声は震えて、足はガクガクで、目はずっとつむって、当たり前だけど誰も見向きもしなくてね。でもそこから何年かバイトしながらそんな生活を続けた。そんな自分をどうしても変えたくて」
汗をかいても、指がかじかんでも、とりあえず続けた。
一歩、一歩が無理なら半歩。半歩が無理ならせめて後ろに下がらないように。
「───で、何年目かの秋の日、下向いてたら急に目の前が陰って、懐かしい声が降ってきたんだよ。『また下向いてる』って。コートに手入れてホットミルクを目の前に差し出してさ、ずいぶん様になってたよ、そらるさん」
後ろを見ると、ため息混じりに隣に寄る。
そ「お前は馬鹿らしいくらい沈んでたよな、ギター片手にガクッて」
「うん、自分でも酷い顔してたと思う。見られるのが怖かったけど、見られないのもすごく怖かった。自分が透明人間にでもなった気がして。そしたらそらるさんが『歌好きなら見られなくてもできる方法がある』って教えてくれたんだ」
そ「……俺そんなこと言った？」
「言ったよ〜。そのすぐ後にそらるさんが歌い手をやってることを聞いた。それで、『お前もこっち来たら？』ってなんでもないふうに言ったんだよね。ほんと…世間話でもするように『べつにそんな焦らなくてもいいだろ。今はまだ好きなことだけやりなよ』って」
そ「………それほんとに俺？」
「ほんとだよ。ほんと……その時も、その後も、今日のことだって、そらにぃはいつも私を救ってくれる」
その時約束した、『辛い時は一緒に空を見よう』って。
「それからそらるさんの友達のまふくんを紹介してもらって、まふくんの友達のさかたん、さかたんの友達のうらさん、うらさんの友達の……ってどんどん人の輪が広がった。
最初はさかたんも言った通りすごい愛想も態度も悪かったと思う。けど急かしたり、諦めたりされない。いっつも優しい視線をくれる。そんなみんなと仲良くなりたい、『友達』っていうのになれるかもしれないって思って、次第に変わっていった」
［そういう経緯だったんですね……］
［そらるさん繋がりってのは知ってたけどそんな感じだったんだ］
［古株からしたら人と触れ合って変わってくミケはすごくかっこよかったよ］
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作者名：ななき。 | 作成日時：2020年11月2日 15時
