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今回は数分で気を取り戻した。
失神して車椅子ごと転倒しそうになったおれを、悠仁は支えてくれたようだった。なぜなら目を開けた時、視界いっぱいに悠仁の顔が広がっていたからだ。
そのせいでまた気絶しかけたのは余談だ。
悠仁の顔を、両手でぺたぺた触る。触れた感覚がある。体温も伝わってくる。
「あ、あの、Aサン?」
なにより、手の動きに合わせてくるくる変化する表情は悠仁そのもので、本当に生きていることをやっと納得した。
確認した瞬間、涙が溢れ出てくる。彼がいなかった間の悲しみが流れ出ているようで、止める気にも拭く気にもなれなかった。
腕を伸ばして、悠仁を引き寄せる。
持ちうる力の全てできつく抱きしめ、彼の肩に顔を押し付けた。
感情のままに、声を出す。
『生きてて良かった…!おかえりっ…』
鼻声で濁点だらけになりながら伝えた言葉は、届いただろうか。
耳元で息を呑む音がした後、おれの背中に手が回された。
そのまま抱きしめ返される。
「うん…ありがと。Aもおかえり」
今度は、おれが息を呑む番だった。
更に涙が出てきて、ついに声を上げて泣いてしまった。
彼は、落ち着くまでおれを抱きしめて、頭を撫でてくれた。
一通り泣いてから、そろりと目線を上げて見渡す。おれたちの横には涙目の釘崎と、心做しか普段よりも雰囲気が柔らかい伏黒、それに知らない片目の隠れた少年がいた。高専の制服を着ている。
聞けば、おれの意識が無い間に紹介された新入生だそうだ。
名前は、吉野順平。
「よろしく」
『こちらこそよろしく』
名残惜しいが悠仁から手を離して、軽く挨拶を交わす。
恥ずかしいところを見られてしまったな。
それから、おれたちは控え室へ移動した。既に二年生が待機していて、話し合っていたようだ。
多分、気絶したおれがすぐには起きそうになかったので置いていったのだろう。
真希先輩にはおせーんだよ、と言われてしまった。
先輩たちと二言三言会話してから、おれと吉野くんは五条先生のいる観戦席へと向かったのだった。
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作者名:月裏 餅 | 作成日時:2022年3月3日 13時