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仕事を始めて数週間───。仕事には慣れたのと、もう一つ。
『何故、当たり前のように私はここへ来るのですか。』
「ここ、好きだろ?」
『この"森が"とても好きです。』
仕事終わりに道場に付き合わされること。それは色んな名目で。
ある日は掃き掃除、またある日は道場清掃・・・何かしら理由は付けられている。まぁ、毎日ではないけど。
「俺が夕方、何故居ないか知っているか?」
『分かりません。』
滝川さんは夕方以降は居ないことが多いと始めに聞いていた。
「誘われて、風舞高校でコーチをしている。」
『コーチって・・・。』
「弓道部。」
『!』
頭に流れて来たのは高校時代の自分───。
バサバサッ
『ちょ、フウ!?』
私の周りを飛んだと思ったら、柵へ向かい、羽を休めはじめた。
「フウも痺れを切らしたのさ。」
射場を出て汗を拭いている。
「気になっていたんだ。弓を引いていないこと。」
『そうだろうと思っていました。』
そうでなければ、こうして道場になんて連れてこないと思う。
『弓を引け、ということですか?』
「いや。あと気になっていたんだが。」
他にも気になることが・・・?
「敬語、止めて構わない。」
『何故そうなりますか。年上ですよ。』
「高校じゃタメ口の奴らだっている。なら、2年早く生まれただけで敬語を使われてもなぁ。」
『・・・無し?』
「あぁ。」
仕方ない。
『ご希望なら、そうしようかな。』
「お、いいね。そっちの方が素直に聞こえる。」
そうかな・・・わからない、その理屈。
「さて。弓から離れた奴の理由は様々だ。直近の奴だと早気が原因だった。」
『私は弓から離れたわけじゃない。』
そんな綺麗な言い方をして良いものじゃない。
『逃げ出しただけなんだから。』
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作者名:月宮 柚妃 | 作成日時:2023年3月26日 19時