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車に案内され、助手席にお邪魔した。
「家はどの辺りだ?」
『えっと・・・』
まだ覚えられていない住所をスマホで確認して伝える。
「了解。」
走り出した。
「その住所じゃ、あの居酒屋は近くないだろ。」
『徒歩圏内だったので。』
「近くかと聞いただろう。」
『・・・遠くもなかったので。』
何か圧を感じる・・・。
「あのなぁ。昨日も送っていきたかったが、いきなり良く知らない男が送るなんて気持ち悪いだろ。だから確認したんだけどな。」
そんなことを考えていてくれたんだ。
「まぁ、昨日の今日で車に乗せてる奴が言えることじゃないけどな。」
ノリツッコミ・・・。それで乗ってる私もどうなんだろう。
「仕事は何とかなりそうか?」
『はい。本当に助かりました。まさか直ぐに職を見つけられると思っていなかったので。』
奇跡的な状況に感謝している。
「それはこっちの台詞だ。そういえば、声を掛けて来た大会、あそこが地元か?」
『はい。ここから良く出てましたね。』
「あの頃は手当たり次第、どこへでも大会に出ていたからな。」
この人にも何かあるのだろう。話している雰囲気が何となく、そんな感じがした。
『そうですか。』
私が触れることじゃない。
「あぁ。引けば引くだけ中ったからな。」
『それは凄い。』
「引かないのか?」
『引いていないと言いましたが。』
何故この話に・・・。
「おっと。この辺りか。」
見覚えのある建物。私が越してきたアパートだ。
『ありがとうございました。』
「また明日。」
『はい、また明日。』
走り去って行く車にホッとした。
これ以上、聞かれずに済んだから。
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作者名:月宮 柚妃 | 作成日時:2023年3月26日 19時