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「好きにしていてくれ。」
『・・・ありがとうございます。』
差し出されたお茶の乗ったお盆。着替えた姿は肌脱ぎをした状態。弓矢を持ち、射場へ───。
そこからは目が離せず、ただただ、美しい射を眺めていた。
「どうした?」
『っ!』
急に覗き込まれて驚いた。
「すまん。驚かせるつもりは無かったんだが、声を掛けても反応無しだったからな。」
『すみません。』
「謝ることはないが。」
見惚れていた・・・美しい姿に。いや、恋とかそういうのではない。あの時の感情とかは比べ物にならない。
『あの時の感情を今、理解しました。』
「ほう。」
『恋とかそういうものでは無かったんだと。』
「俺の射を気に入ってくれていた、ということか。」
ただ感情のままに「好き」だと口にしたあの時の私。
「それはそれで嬉しいけどな。ククッ・・・猪突猛進って感じだな。」
『あの頃の私は、実際、猪突猛進でしか生きていなかったんですよ。』
それしか知らないあの頃。
立っていた滝川さんは私の目線に合わせて屈んだ。
「それを悪いとは言わない。しかし、相手がその流れで適当に付き合う奴だったら最悪な状況になっていたかもしれない。言葉にする前に考えることを勧める。」
『はい。』
「よろしい。」
そう満足そうに立ち上がるその人はとても大人に見えた。
『・・・子供に見られていますよね、私。』
「そんなことはない。酒を飲むところを見たくらいだ。」
『そこですか、基準は。』
何故、こんなにも私は穏やかに射を見られているのだろう。逃げ出した私は・・・そんな資格、あるのだろうか。ふと我に返った。
『あの、私、そろそろ失礼します。』
「まぁ、待て。」
『いえ、あの本当に・・・。』
「もう暗い。付き合わせたんだ、送る。」
確かに暗いけど。
「越して来たばかりの奴を暗い中返して、何かあった時の俺の気持ちが分かるか?」
そんな風に言われてしまったら断れない。
『分かりました。お願いします。』
「着替えて来る。」
とりあえず道場の外に出た。
バサ・・・
気のせいかな?何か音が・・・
バサバサ・・・!
『!?』
柵の上に真っ白な───。
『梟?』
「フウ。逃げないように見ていてくれ。」
『フウ・・・。』
可愛い名前・・・滝川さんが付けたのなら意外。
『外に出たのはすみません。でも、逃げていません。』
「はいはい。」
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作者名：月宮 柚妃 | 作成日時：2023年3月26日 19時
