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雅貴さんは話に聞いていた通り、とても忙しそう。色々な人との打ち合わせや、神事に使う道具の手入れなど。
私もなるべく言われていた仕事以外も探して、出来る限り役に立てるよう動き回る。
夕方は風舞へ行くと聞いている。
神事とコーチと両立はとても大変そう。
片付けと戸締まりを終え、確認していると音が聞こえた。
『・・・雨。』
何だか胸が騒がしい。雨のせいかな。
『よし。』
気分を晴らす為にも、もう少し掃除とお札の確認をしよう。
作業が終わった───。
カタン
「どうした?こんな時間まで。」
『少し念入りにと思って・・・。』
あれ・・・。
その瞳は、お祖父さんの話をした時の・・・いや、少し違う。
『・・・あのさ。』
「ん?」
『お茶、飲まない?』
「お茶?」
宿舎に来てもらって、お茶を入れた。温かい湯気が漂う。
「どうも。」
『うん。』
何も話さず、ただ時間が流れる。
「温かいな。」
『ね。』
「・・・・・。」
温かいお茶は芯まで染み渡る。
「何か変だったか、俺は。」
『瞳が違ったから。』
「そうか。」
お茶を流し込む姿は何だかとても辛い。
「嫌なことをしたんだ。」
話してくれた。
自分がされて嫌だった問い、弓道は好きか。それを部長の静弥君にしてしまった、と。
『それは、嫌な問いだ。』
「あぁ。」
好き、という答え以外、すべて不正解だと思えてくる。だけど。
『考えることが無駄だとは思わない。雅貴さんも、自分なりに受け止めた?』
「一応は考えたさ。」
『なら、大丈夫。』
「何故、そう言える?」
『雅貴さんが今、こうして居るから。』
その青い瞳がそんなに大きくなったのを初めて見た。
『え、何?』
「いや。」
寂しそうに笑った。
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作者名:月宮 柚妃 | 作成日時:2023年3月26日 19時