二回の決別 ページ46
その後おばあちゃんは棺に納められた。
自分のお店の花に囲まれて、おばあちゃんは幸せそうに眠っていた。
それを見ても、また涙が溢れてきて、虹色になった視界の中、一緒に育ててドライフラワーにした薔薇を一輪、その中に入れた事を鮮明に憶えている。
「ジェイさん、本当にありがとうございました」
両親は二人揃って納棺師さんに頭を下げた。
二人とも鼻声で、床には涙で模様ができる。
そんな二人に納棺師さんは謙遜した後、ぺこりと礼を返した。
その三人のやり取りを横目に、私はじっと棺の中のおばあちゃんを見つめていた。
おばあちゃんの顔は穏やかな顔をしていて、揺すったら起きるかもと思ってしまう。
少しだけなら触ってもバレないだろう。
真っ白な手に恐る恐る手を伸ばす。
人差し指がその手に触れた。
硬い。
冷たい。
無機質な二つの感覚だけが伝わってきて、直ぐに指を離した。
やっぱりおばあちゃんはもう死んでいる。その事実は変わったりしない。知ってたけど残念だった。
肩を下げるていると、
「興味、ある？」
急に後ろから声を掛けられて、下げた肩がまた上がった。
振り返ると、微笑んだ納棺師さん。
「もし良かったら、私と一緒に来ないかい？この方が亡くなってから心が落ち着かないと聞いたよ。環境を変えたら落ち着くかもしれない」
おばあちゃんを触った事は何も言わないのと、突然のお誘いに吃驚した。
そっと差し伸べられた手をじっと見つめた。
もしこれを断ったら……。
数々の嫌な事が頭の中で交差した。
「良いんですか？」
「勿論。両親にも許可を取ってあげるし、歓迎するよ」
私は頷いて躊躇いなくその手に自分の手を重ねた。断る理由なんてなかった。
◆
それから私は納棺師さんと一緒に暮らす様になった。
亡くなった人の修復と死化粧を納棺師さんが、棺に入れる花を育てるのを私が担当した。
そこには嫌なものなんて無くて、これまで私を支配していた負の感情もいつしか顔を出さなくなった。
そんな生活を送り続けて長い時間が経った頃、遂に私達にも別れというものが来てしまった。
納棺師さんは一人の養子を受け入れる事になったらしい。
名前は忘れてしまったけれど、その子は男の子で、発達障害をもっているそうだ。
子供が二人に増えたら、きっと納棺師さんは大変になってしまうだろう。
此処で暮らした事で私の心は充分に癒えた。
だから次はその子の番。
こうして私は彼に別れを告げた。
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にゃろ(プロフ) - 錆さん» コメントありがとうございます！とても光栄です。更新頑張ります！ (2020年5月24日 20時) (
レス) id: 67ae364a5f (このIDを非表示/違反報告)
錆(プロフ) - コメント失礼します。いつもワクワクドキドキしながら読ませていただいてます。無理せず更新頑張ってください！ (2020年5月24日 17時) (レス) id: a752c0635d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にゃろ | 作成日時：2020年4月18日 1時
