魔法 ページ45
その日はまるで魔法にかかった様な感覚だった事を覚えている。
両親に連れられて向かったのはおばあちゃんの元だった。
どんな場所にどうやって行っただとかは、記憶が定かではなく憶えていない。
おばあちゃんはあんなに残酷に殺されたのに、修復されたのか綺麗なまま寝かされていた。
だけどピクリとも動かないし血の気がない。
よく、死体に向かって今にも目を覚ましそうだとか言う人が居るけれど、私はこんなおばあちゃんを見てそうは思えなかった。
あるのはおばあちゃんの抜け殻で、此処にはもうおばあちゃんは居ない。
きっと、今から何か葬儀をするんだと直感で分かっていた。
けれど、どんなに立派な棺に入れられようが、どんなに素敵な讃美歌を歌おうが、おばあちゃんはその場に居ないのだ。
今から行われるのは何の意味もない事だろう。
私は何色にも染まっていない心でただじっと抜け殻を見つめていた。
すると、部屋の扉が静かに開いて、久しぶりに納棺師さんと会った。
彼はすっかり生気の失せた私の顔を見て、さぞ吃驚した事だろう。
ただ、「Aちゃん、久しぶりだね」とだけ言っていつも通り私の頭を撫でた。
納棺師さんが入って来てから、私の母は顔を明るくした。
私の両肩に手を置いて、
「納棺師さんだよ。おばあちゃんの体を今の綺麗な状態にしてくれたのもこの方なの。今からもっと綺麗綺麗にしてくれるのよ」
と、にっこり笑う。
納棺師さんは両親に深くお辞儀をした後に、おばあちゃんの前に座った。
そして手際良く作業をしていく。
体を清めた後に両親が用意した綺麗な服を着せ、死化粧を施していく。
その工程をじっと見つめるのは、不思議な感覚だった。おばあちゃんの顔は、まるで魔法をかけたかの様に血の気が戻っていく様に感じた。
一度死んだ人間はもう二度と生まれ変われないのに、もう一度おばあちゃんの魂がその体に戻ってきたかの様に思えた。
まるでただ眠っている様なおばあちゃん。
その顔はとても安らかだった。
目の奥が熱くなって、鼻が詰まる。
思わず花を啜ると、横からも同じ音が聞こえた。
見ると、両親はボロボロと涙を零していた。
その途端に、納棺だとか葬式の意味が分かった気がした。
おばあちゃんのしてくれた死後の話の意味も今なら分かった。
その瞬間に、何か私を縛り付けていたものが解けたかの様に涙が溢れた。
ボタボタと床を濡らしながら私は、一生この出来事を忘れる事はないだろうと悟った。
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にゃろ(プロフ) - 錆さん» コメントありがとうございます！とても光栄です。更新頑張ります！ (2020年5月24日 20時) (
レス) id: 67ae364a5f (このIDを非表示/違反報告)
錆(プロフ) - コメント失礼します。いつもワクワクドキドキしながら読ませていただいてます。無理せず更新頑張ってください！ (2020年5月24日 17時) (レス) id: a752c0635d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にゃろ | 作成日時：2020年4月18日 1時
