とても無垢で ページ43
私は口をあんぐりと開けて動けない。
これは夢ですよね！？明晰夢的なアレですよね！？
思考の沼に沈む私の耳に、二人の楽しそうな会話が吹き抜けていく。
だっておばあちゃんはもう居ないし、納棺師さんも……。
「Aちゃん？まだ眠いのですか？」
おばあちゃんの声によって思考は断ち切られた。
「いえ！何かお手伝いする事が？」
「ええ。お客さんがユリとカーネーションをお買い上げですよ。お会計任せましたよ」
「はい」
幼い頃おばあちゃんの手伝いをしていた時のように、代金を受け取って、お金の入った箱に入れ、そこからお釣りを取り出して渡す。
納棺師さんは微笑んで、ありがとうと私の頭を撫でた。
「Aちゃんもどんどん大きく、可愛くなっていくね」
昔、店に来る度に言われたこの嬉しい言葉。
今は混乱しか産まないし、今の私は逆に退行していると言った方が正しい。
「じゃあ、また来ますね」
おばあちゃんから沢山のユリとカーネーションを受け取って、納棺師さんは店を出ていった。
おばあちゃんはその背中を見送った後に、カウンターにもたれながら口を開いた。
「よく来てくれる今のお客さんね、納棺師の仕事をしていて、亡くなった人の魂を送り出す仕事をしているのですよ」
その言葉を聞いて脳裏にある思い出が浮かび上がった。
常連客の納棺師さんが花を買い込んだ日、おばあちゃんがこの人は納棺師の仕事をしていると教えてくれた時の思い出。
当時の私は死ぬ事だとかがよく分からず、次のお客さんが来るまで質問攻めをして困らせたんでしたっけ。
確かその時におばあちゃんは死後の話しもしてくれた。
もしかして、過去の思い出が夢として蘇っている？
「そうなんですね〜」
納棺師さんの事知ってますよ！とだなんて口が裂けても言えないので、適当に返事をしておいた。
目の前にいる孫の中身が成人した未来の孫だなんて夢にも思わない顔で、おばあちゃんは
「おばあちゃんも死んだら今の納棺師さんに納棺して欲しいなぁ」
と呟いた。
その呟きに私はまたある出来事を思い出す。
私はおばあちゃんに、
安心して。おばあちゃんは望み通り、そのジェイさんに納棺されるよ。
だから、まだ……。
「……死なないで」
ぽつりと呟いた。
私の声は空気に溶ける前におばあちゃんに届いたらしい。
目をまん丸にしてから、微笑んで、私を抱きしめた。
「大丈夫。まだ死んだりしないですよ」
その言葉はとても無垢でとても愚かだった。
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にゃろ(プロフ) - 錆さん» コメントありがとうございます！とても光栄です。更新頑張ります！ (2020年5月24日 20時) (
レス) id: 67ae364a5f (このIDを非表示/違反報告)
錆(プロフ) - コメント失礼します。いつもワクワクドキドキしながら読ませていただいてます。無理せず更新頑張ってください！ (2020年5月24日 17時) (レス) id: a752c0635d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にゃろ | 作成日時：2020年4月18日 1時
