運命の人 ページ38
「特別……って事は、何らかの運命でしょうか？」
自分の中に発生した異常を悟られないように、重ねて言った。
「運命……ですか。此処で出逢ったのですし、有り得るかもしれないですね」
にっこり笑って納棺師さんが言う。
どうやら気づかれてないようだ。このまま……。
「って事は出逢った方全てが運命って事になりますよ？」
「僕はそうだと思いますよ。だってこの荘園、個性強い人しか居ませんし、微塵も影響受けてないと言ったら嘘になるでしょう？」
納棺師さんは自分の胸に手を当てて続けた。
「僕を形成する一部に、Aさんを含めた出逢ってきた人達の存在があるんです。僕は自分の事が好きにも嫌いにもなりますが、無関心にはなりません。関心をもてる様な僕を造った素敵な人達との縁。きっと素敵な運命に違いないです」
熱の籠った口調で一息で言い切った。
そして納棺師さんは私の右手をそっと取る。
愛おしむ様な瞳で私の右手を見つめた後、そっと両手で包み込んで自分の胸に当てた。
途端に顔に熱が集中するのが分かった。
心臓の鼓動が急激に早くなる。
さっきまでは誤魔化しだとかで自分の内面と外見の温度差は氷点下と炎天下程に違っていたが、今は両方炎天下。
誤魔化す事は熱に炙られて消え、焼却炉の如く頭の中は燃え盛った。
そんな私の様子と自分が何をしているかに気づいていないのか、納棺師さんは優しい瞳で私を見つめ、微笑みながらまた言葉を紡ぐ。
「Aさんはこれまでに出逢ってきた方の中でも特に素敵な運命の人です。貴女のお陰で僕の生活はとても華やかになりました。僕の中でもとても惹かれる部分になってくれて、運命に従って僕と出逢ってくれてありがとう」
恋人に対する口説き文句かと思う様な言葉は頭の中で燃え盛る炎の燃料となり、脳味噌は燃え尽きた。
冗談を言っているとも思えない様な曇りのない目で見つめられて、そんな事を言われても、脳細胞が焼死した頭では何も返す事が出来ない。
私はただ頷いて、茹でダコの様に真っ赤であろう顔を彼から背けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 65人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
にゃろ(プロフ) - 錆さん» コメントありがとうございます！とても光栄です。更新頑張ります！ (2020年5月24日 20時) (
レス) id: 67ae364a5f (このIDを非表示/違反報告)
錆(プロフ) - コメント失礼します。いつもワクワクドキドキしながら読ませていただいてます。無理せず更新頑張ってください！ (2020年5月24日 17時) (レス) id: a752c0635d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にゃろ | 作成日時：2020年4月18日 1時
