種 ページ35
「すみません。まさか誰かが居るとは思わなくて…」
あの時と同じ様に頭を下げて、自分の成長のしていなさを感じた。
ただ、あの時と変わっている事を一つ見つけた。
「いえ。そんな、別に怒っても居ないですし。気にしないでください」
納棺師さんの私に対する態度だ。
あの時は怯えた様な顔をしていたのに、今は少しぎこちないけれど、確かに笑顔を浮かべ、私の元から走り去らない。
仲良くなっている証？
そう考えたら、身体の底から嬉しさが湧き上がってきて、口元が綻んだ。
「そういえば、納棺師さん。どうして中庭に？まだ時間ではないのに」
ずっと気になっていた事を聞くと、納棺師さんは困ったように俯いた。
「あぁ。別にお話したくなければいいですよ」
「すみません…」
消え入る様な声でそう言われ、暫く小鳥の囀りしか聞こえなくなる。
要らない質問をしてしまった…。
取り敢えず何か話すべきだろうか。何か良い話題をと脳をフル回転させる。
「僕、自然が結構好きだったりするんです」
だが、脳が話題を絞り出すよりも、納棺師さんがそう言う方が早かった。
「…あっ！そうなんですね！」
まさか彼の方から話してくれるとは思わなくて、間がある上に薄っぺらい返事になってしまった。
だが、そんな事など気にしない様子で花壇の花を眺める納棺師さん。
その身体全体で自然を感じる姿は、とても絵になった。
まるで私が聖域に踏み込んで居るかに思えて、少し罪悪感すら感じる。
優しく細まった灰色の瞳、風になびく銀色の髪。こんなにも自然と一体化したような、優しい雰囲気を醸し出している納棺師さんは初めて見た。
見惚れていると、
「Aさん」
突然名前を呼ばれて心臓が跳ねた。
「あ、はいっ！何でしょう？」
「良ければこれ、受け取って欲しいです」
そう言って渡されたのは白くて小さな袋。
一瞬だけプレゼントという言葉が過ぎって顔に熱が集中した。
誤魔化すように納棺師さんから顔を逸らして、袋を開けた。
「………。これは、種？ですか？」
「はい。黄色い薔薇の。もし、スペースが余っていたら植えて欲しいなと」
とっても嬉しい。
だけど、今ある花でいっぱいで、スペースなど存在しなかった。
「すみません。生憎今は場所が無くて……。そうだ。来年、薔薇の隣の花の所に植えますね」
そろそろ寿命を迎えるユリを指さして言った。
すると、納棺師さんは優しい笑みを浮かべる。
その見た事のない表情に、鼓動は高鳴りっ放しだった。
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にゃろ(プロフ) - 錆さん» コメントありがとうございます！とても光栄です。更新頑張ります！ (2020年5月24日 20時) (
レス) id: 67ae364a5f (このIDを非表示/違反報告)
錆(プロフ) - コメント失礼します。いつもワクワクドキドキしながら読ませていただいてます。無理せず更新頑張ってください！ (2020年5月24日 17時) (レス) id: a752c0635d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にゃろ | 作成日時：2020年4月18日 1時
