【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ10)

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目を合わせて【写真家】ページ10

パシャ、パシャ、という機械の音と、光が部屋の中に連続する。
暫くそれが続いて、止んだかと思えば写真機から顔を上げる渋い顔をした彼と目が合った。

あー、今回もダメだったかなー。

そんな予感はやっぱり今回も的中した。
「ねえ。A、もうちょっと上手に笑えないかな？」
そう言って目の前に数枚の写真を突きつけられる。
その写真には全部私が写っていて、どれも浮かないというか、ぎこちない顔をしていた。

「ごめんなさい……」
「別に謝ることは無いよ。一番悪いのは荘園の主だし」
まあ、確かにそうだ。
あの荘園の主が私達の詳細を書いた本にコーヒーを零していなければこんな事になっていなかったはずだ。
内容の復元はどうにかなるが、写真だけはどうにもならないから、写真家のジョゼフに全員分の写真を取り直して欲しいと頼んだそうだ。

私達の詳細が書かれた本……それを軽食代わりにコーヒー啜るなんて考えただけでも荘園の主には背筋が凍る。

そんなこんなで今日のゲームは中止してハンターやサバイバー関係無しに皆で撮影会をしていた。
他の皆は全員スムーズに撮り終わったのだが、私だけ最後、写真を撮り直したいと言われ此処に残っている。
彼曰く、折角だから、完璧な写真を撮りたいのだそう。
ジョゼフは今日丸一日写真機を弄りっぱなしだし、疲れているだろうから、早く終わらせたいのだが、中々ちゃんとした写真が撮れない。他の皆にも、まだ彼奴やってんのかと思われたくないし、ジョゼフにも申し訳ない。
まるで学校で居残りしている感覚だ。

「あーあ！主のくせにうっかりミスなんて！」
荘園の主の悪態をついたら、ジョゼフに写真の束で頭を叩かれた。

「もう、悪口言ってもしょうがないでしょ。子供じゃないんだから」
「ちぇ。何か今日はやけに主様大好きだね」
「写真機を幾らでも弄っていい機会をくれたんだもの。少しは感謝をしなくちゃ」

そう言って微笑む彼は本当に絵になる。格好良くて美しかった。写真家だけでなくて被写体もいけるのではないかと思う。

ぼけーとしていると、彼は今私を叩いた写真を眺め、少し考え込んでいる様子だ。

私も何かしなければと取り敢えず近くの鏡に向かって微笑んでみる。
鏡の中では、不気味な笑顔を浮かべた少女がこちらを見詰めていて、自分の筈なのに嫌悪を覚えた。私はこんな薄気味悪い笑顔しか出来ないのか……。
ジョゼフの微笑みとは掛け離れた笑顔に失望してガックリと肩を落とした。