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チャンスは直ぐにやってくるもので、お茶会があった日はイライは一日中試合に参加し、夜には憔悴しきっていた。
いつも曲がっている背中を更に曲げて、下を向き、廊下の壁にもたれながら自室へと歩いている。足元もおぼつかず、汗なのか涙なのか分からない液が顔から滴っている。
彼の愛鳥もぐったりと肩に止まっている。
神経の方もだいぶやられているのか、苦しそうに何かを呟く声が私の鼓膜を微かに震わせた。
「イライ！」
いつもと違って弱々しい背中に声を掛けると、さっきまで引き攣らせていた口角を無理やり上げて、
「ああ、A。どうしたんだい？」
と、震えた声で言ってくるものだから、見ているこっちも辛くなってくる。
「どうしたのじゃないでしょ！もう、こんなに無理して！」
急いでイライの肩を支えると、彼はすまなそうにお礼を言った。
ゆっくりペースで歩いていくと、イライの部屋に着いた。私は空いている方の手でその扉を開いた。
「ごめん。ありがとう」
そう言って腕を解こうとするイライは、いつもと違ってこの場から離れるどころか、イライの部屋へ入ろうとする私に驚いた表情をする。
「辛いんでしょ。傍にいるから」
イライにそれだけ言って、彼の部屋に一歩踏み出す。その瞬間にイライの香りが体を包み込んだ。
きちんと整理整頓された部屋は窓から入ってくる月明かりに薄く照らされていた。
取り敢えずイライをベッドまで誘導し、そこに座らせてから部屋の電気を付けにいく。
そのついでに備え付けの小さな冷蔵庫から、下処理され小さくカットされたヒヨコが入っているタッパーを取り出し、そこから約一羽分のヒヨコを取って小皿に乗せた。
全て分かっていたかの様に飛んできた梟はそれを美味しそうにつつく。
「ポッポちゃんも頑張ったもんね、お疲れ様」
モフモフの体を一撫でして、イライの元へ戻った。
そこには、信じられないくらいに弱々しくなったイライがいた。
枕に顔を埋め、呻き声を漏らしている。こんなイライ、初めて見た。
こんなまま、いつも私は……。
突如として溢れてくる罪悪感と後悔を振り払って、ふるふると震えているイライの背中を優しく摩った。
「大丈夫？イライ」
「A……」
そう呼んでイライは枕から顔を上げた。ずり落ちたフードと目隠し。露になったイライの青色の瞳は、充血しながら思いの欠片を流し続けていた。
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作者名：にゃろ | 作成日時：2019年11月4日 21時
