IV ページ32
決闘はまだまだ続けるつもりなのだろうか？
Aさんは僕の部屋の扉を見つめながら、
「居ないのかな……」
と呟いて、この場を後にしようと振り返った。
綺麗な蒼色の瞳と目が合って、僕の顔には一気に熱が集中した。
「うわぁ！？」
Aさんは驚いて可愛らしい声を上げ、数歩後ずさって壁に頭をぶつけた。
「い、いたの！？ビクター君。あ、そだ、これ、ルキノに渡してくれる？」
ぶつけた頭を押さえながらAさんは手紙を差し出した。
だけど、それはいつもの果たし状ではなかった。
真っ白い封筒ではなく、可愛らしい花柄の色鮮やかな封筒。
達筆な果たし状という文字は何処にもない。
「いつもお疲れ様。よろしくね！」
そう言ってまた走り去っていくAさんの頬はほのかに赤がかかっていた。
同時に色んなことが頭を交差する。
ウィラさんとフィオナさんとの会話。
目の前のいつもと違う封筒。
いつもより1時間ほど遅れたAさん。
去り際のあの表情。
Aさんは少し微熱があって、寝坊してしまって、封筒は白いものが切れてしまった、といえば無理矢理辻褄を合わせる事はできる。
だけど───。
────駄目だ。これ以上考えたら、最悪な事が現実になってしまうかもしれない。だけど、その考えが一番真実の様にも感じてしまって。
僕はどうすれば……。
その時、頭に光が瞬いた。
僕はいつものようにウィックは呼ばず、そのまま部屋に入る。
そして、ゆっくりと封筒の糊を剥がした。
中からは綺麗な一枚の紙が入っていた。
それを読み終えて、僕は溜め息をつく。
真実を知った先に、希望が必ずある訳がないんだ。
「許してくれなくてもいい」
そう呟いて、惨めな僕はマッチに火を灯した。
絵の具で滲むように揺れる炎。
「ごめんなさい」
僕はそれを手紙に植える。
綺麗な赤い花は他の花を代償として美しく咲き誇り、やがて小さくなって消えた。
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作者名：にゃろ | 作成日時：2019年11月4日 21時
