【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ30)

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Ⅱ ページ30

ウィックに手紙を任せた後、僕はいつものように試合を観戦できる場所へと向かった。
その場所の扉を開くと、各観戦部屋に繋がる長い廊下に出る。

精神病院、軍需工場等、各エリアの名前が彫られた文字を眺めながら、いつもの舞台になっているレオの思い出の扉をゆっくりと開いた。
皆試合に出ているのか、これから始まる決闘に興味がないのか、部屋には誰もいなかった。
その方が僕としては落ち着けて良いのだけど。
念の為、一番後ろの一番端の席に座った。

椅子に全体重を預けて、待っていると、ぱっとスクリーンに映像が映った。暗闇での突然の強い光に驚きながらも画面を見つめる。
映し出されたのはルキノさんを背後から見つめた映像。
彼の目線は一つの揺れている暗号機を捉えていて、迫力満点のハンタージャンプでそこまでの距離を縮めていく。二段階めのジャンプで、解読しているAさんの姿が映る。
ルキノさんは丁度そこに華麗に落下。
余程警戒していたのか、それに気がついたAさんは暗号機から離れて、板のある方へと向かった。
だが、警戒と同時に焦ってもいたらしい。
板を倒す向きを間違えてしまった。その後ろから容赦なくナイフが振り上げられる。
Aさんはすぐにルキノさんの横をすり抜けようとしたが、ルキノさんは上手く体の向きを変えて、ナイフはAさんの体に的中。
「うぐぅっ！！」
痛みを何とか堪えるような声が上がり、体をフラつかせながらも、小屋の強いポジションまで逃げていく。
それをルキノさんは全て読んでいたのか、2段ジャンプで追う。
それは僕も読めていた。否、分かっていたと言うべきだろうか。Aさんは決まって、その方向へと逃げるのだ。その逃げ方を毎日しているものだから、ルキノさんの対策は万全だ。
きっと、今日もやられてしまうのだろうか。
脳裏に「今回は行ける気がするの！」と意気込むAさんが過ぎる。

その時、
「ビクター君！何処にいるなの！？」
高くて若々しい声が聞こえてきた。この声と口癖はエマさんだ。僕を呼んでいたが気づいていないらしい。何の用だろう？
僕は立ち上がってエマさんの方へと向かった。
本当は社交恐怖で人と関わりたくないが、大切な用事だったら申し訳ない。
僕の存在に気がついたエマさんは、ほっと安心した様に胸をなで下ろした。
「いたなの！急いでなの！試合に遅刻なの！」
え、嘘？僕が？自分に指を指すと、
「そうなの！」
と激しく頷くエマさん。
僕は慌てて部屋を飛び出した。