【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ29)

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果たし状【ポストマン】ページ29

「あ！ビクター君これ、ルキノに渡してくれる？」

そう言ってAさんは僕に手紙を渡してきた。

白い封筒には、日本人の彼女らしい達筆な文字で『果たし状』と書かれていた。

もう習慣の様になってしまったこれに、僕は苦
笑いする。

「毎度毎度ごめんねー、でも今回は行ける気がするの！」
そう言って自信満々に目を輝かせるAさん。

彼女は毎日、封筒の文字通り、ルキノさんと決闘をしている。
カスタムでのタイマンで、120秒チェイスが出来ればAさんの勝ち、その間にダウンさせる事が出来ればルキノさんの勝ち。
毎日毎日しているものだから、それを決闘と言っていいものか分からないけれど。

僕はその試合を観戦しているから知っているけれど、今のところAさんの全戦全敗で終わっている。しかも、全部即死だ。120秒どころか、30秒ももっていない。

だけどAさんは懲りずに毎日決闘とも言えない勝負を申し込む。
毎日しているものだから、チェイス時間は段々と伸びてはいる。だが、伸びたとしてもまだ60秒程度だ。まだまだ先は長い。

だけど、僕はそんなAさんを馬鹿だと見下した事は無い。
逆にとっても可愛らしいと思う。そういう負けず嫌いな所とか、チェイス中に板を間違った方向に倒してしまう所だとか。

……そう。もう分かる通り、僕はAさんの事が好きだ。
だけど、自分から何かアプローチだなんて出来ないし、もしも仮に結ばれたとしても、社交恐怖で壮大な迷惑をかける様な未来しか想像出来ない。

だから、僕は今のこの関係のままでいい。
彼女が毎回渡してくる果たし状だけで繋がったこの何でもない関係のままで。

突き出された封筒を、僕はいつものように両手で受け取った。
Aさんはにっこりと微笑んで礼を言った後、いつものようにパタパタと何処かへ走っていく。

春の木漏れ日の様な優しい彼女の微笑みを脳裏に焼き付けてから、まだ高鳴る鼓動を抑えて親友のウィックを呼んだ。