【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ26)

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Ⅱ ページ26

「貴方の事を紳士だと思っていた数分前の私が馬鹿みたい」
「おや。紳士ですよ？ロケットチェアで飛ばされる運命の貴方に、選択肢をあげているのですから」

キョトンとした様子のリッパー。

「……本当の紳士は女性の髪を引っ張って持ち上げたりしねーよ。このサイコパス」
正論に毒をたっぷり絡めてお見舞いすると、
「あれ、貴方女性でしたっけ？」
と堪忍袋の緒がブチブチに切れる様な事を言う。荘園のみなさん聞きました!?この発言！

「女だよ！レディーに優しくしろっての！」
「ダウン状態に関わらず活きのいい事で」
地面に降ろされた。
「さあ、早く選んでください。這いずってでも脱出するか、このまま失血死するか。……あ、可愛くお願いして頂ければロケットチェアに飛ばしてあげる事も出来ますよ。どれを選んだとしても、ちゃんと最後まで見届けてあげますよ、紳士らしく」
どうします？、と首を傾げるリッパー。

苛苛が爆発して選ぶ所ではないが、今のところ一逃げ二吊りで負け確のこの試合が引き分けになるのなら私は這いずってでもでようか。

引き攣る手足を一歩ずつ前に出した。動く度に手足が痺れ、傷口から多めに出血して激痛が駆け巡る。息が苦しい。血の味がする唾を飲み込む。頭痛も酷い。
「ほう。自分のプライドよりも勝利ですか」
感心するような声が上から降り注ぐ。
頑張る貴方にプレゼントと言わんばかりに一歩進むごとに上からひじきとスタンプも降ってくる。

「貴方は何がしたいの……」
「だから気分ですよ」

それからは特に何も言葉は交わさなかった。
私はずっとゲート目指して這いずり続けたし、そんな無様な姿を彼はずーっと見つめていた。

◆

……ああ。もうダメかもな。ジェットコースターの横。ゲートの目の前。目の焦点が合わないから何となくだけど。
意識はもう朦朧としていて、這いずっている時にあった吐き気とか寒いとか熱いとか痛みとか、もうそんな感覚も麻痺してしまった。
だんだんと自分の全てが無に還っていく。死んでいく。全てが遠ざかっていく。
不思議と怖くは無かった。

目の前は真っ白になる。

少女をずっと見てきた紳士は、彼女を抱き上げ、そっとゲートの外へ放り出す。

「楽しかったですよ。ではまた次のゲームで」

◆蛇足◇
リッパーさんはAさんに初恋中。ですが本人はこれまで切り裂く対象でしか無かった女性に芽生えたその感情をどうしていいか分からず、Aさんとのゲームでは気まぐれな事をしてしまっています。