【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ24)

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レクイエム【黒無常】ページ24

「ちんこんきょく」

そう呟くと、目の前の范無咎は眉を顰めた。

「どうした、急に」

彼はレクイエムという衣装を着ており、その衣装の名を聞いた時、この言葉がふと頭に浮かんだのだ。

「その衣装の名前を、私の国の言葉で言ったら鎮魂曲っていうの。魂を鎮めるって書く」

空中に文字を描きながら言うと、無咎は「ほう」と納得したように頷いた。

鎮魂曲と言えば、本当は魂を裁く裁判の恐ろしさを表した様な曲もあるが、反対に安らかに眠れるような曲もあるらしい。
どっちも素敵な曲だとは思うけど。

「そういえば、試合中に魂を沢山吸ってくる相方さんを持つ范無咎？」
「何だ？」

「散々魂を吸ったり揺したりしてるけど、今回のレクイエムといい、そんなに勢いを削ぎたい人がいるの？それとも、安らかに眠って欲しい人とか」

そう聞くと、無咎はふと窓の外を見て、どこか切なげに言った。

「ああ。いる」

窓の外はどんよりとしていて、何時雨が降り出してもおかしくない。

「へえ。それって誰？昔の恋人？」
勢いで聞くと、
「謝必安」
即答された。窓の外を見たまま。

「あれ、相方さんって……」
「必安は首を吊って俺の後を追って死んだ」

聞いた途端に自分のデリカシーの無さに失望する。なんて事を聞いたんだ、私は。

謝罪する前に、「別に謝る事は無い」と言われる。彼はまだ、窓の外を眺めている。白い線が疎らに見える。雨が降ってきたのだ。

「本当にごめん」
「いいと言っているだろう」

…と、いうことは相方同士のお二人、とてつもなく気まずくないか？
自分が原因で死んでしまった人だったり、逆を言うと、事前に自分が何かしていれば死なずに済んだような人と同じ傘に閉じ込められているわけだ。

大変だったんだろうな……。

疎らだった雨は、土砂降りとなって窓を叩いていた。
それを無咎は吸い付けられるように見ている。
その瞳はとても悲しそうに見えた。

……何か関係があるのだろうか？
今回は何も聞かなかったけれど。

「ねえ。無咎」
呼びかけると、彼はちらりと此方を見た。
虚ろな瞳と目が合う。

過去に囚われるなとは言えない。だって、想像できないくらい、この二人は苦しい思いをしてきたのだろうから。
でも。流石に可哀想すぎる。

「探しに行こう。試しにピアノのある部屋へ行こう」
「何を探すんだ？」

「安らかになれるレクイエム」

彼は、どう思っただろうか。

ただ、
「Aは優しいな」
彼らしからぬ事を言って、ふわりと微笑んだ。