【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ3)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:15,415 hit

Ⅱ ページ3

襲ってくるであろう痛みを覚悟して目を瞑ったその時だった。

グイッ。

何かに手を掴まれて、倒れようとしていた方とは逆方向に引っ張られた。

ガーデンチェアがお尻から離れて、ガターンと大きな音が響く。
私もそれに続いて後ろに倒れそうになるが、踏ん張って何とかバランスを保った。

目を開くと、なんとハンターであるリッパーさんが私の事を引っ張ってくれていた。
彼が机に身を乗り出していた事から、さっきから起きていた奇妙な現象の全てに合点がいった。全部彼の仕業だった、という訳だ。

私は口の中で暴れまくっていた紅茶を飲み込んでから、「助けてくれてありがとうございました」と礼を言うと、彼は微笑んで「いえいえ」と言いながら手を離した。

微笑んだといっても、彼の表情は仮面によって遮られているので、私が雰囲気的に笑ってそう、と勝手に思っているだけだが。

「あの、さっきの現象全部リッパーさんのせいですよね」
「あ。バレてしまいましたか」
「当たり前です」
「すみません。Aさんの反応が可愛くてついつい……」

私のオーバーな反応よりも今の貴方の俯きながら頬を頬を掻く仕草の方が可愛いと思いますがね！
そう思いながら倒れたガーデンチェアを起こし、ハンカチで零した紅茶を拭く。

実を言うと、こんなふうに何かされるのは、今日が初めてではない。何か物を隠されたり、試合の時、やけに私ばかり狙われたり。驚かされたのは今日が初めてだけれど。最終的には隠していたものを返してくれたり、もし私がダウンしても、必ず地下室や脱出ゲートに運んでくれるけれど、どんな理由があろうとも、そういう意地悪はそろそろ止めて欲しい。精神的に疲れる。

「ねえ。リッパーさん」
「なんですか？」
「そろそろ、やめて貰えませんか、こういうの」
「ええー？何故です？」
「迷惑なんですよ、そういうの」
私ははっきりとそう告げた。

しばらく気まずい沈黙が続いた。
リッパーさんの方を見ると、何故か彼は俯きながらくすくすと笑っていた。
私は何だか気味が悪くなってきて、紅茶で濡れたハンカチをエプロンのポケットに押し込んだ後、スケッチブックと空になったティーカップを手に持って、私はガーデンチェアから立ち上がった。
「それでは、そろそろ失礼します」
そうリッパーさんに言って、急ぎ足で中庭を出た。