【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ13)

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Ⅱ ページ13

Aが走った方向と逆方向に走り出す。
芸者が僕を追っている事を確認して、板のある方へ走った。

定期的に目を合わせつつ、近づいてきた芸者に向けて板を倒す。浅く抉られた体からは血がダラダラと流れているが、失敗して相討ちになんてなったら許されない。

板が壊されたら別の板。板が壊されなかったらそこでチェイスする。

何度も芸者の刃が僕を掠めた。
服は傷だらけで1歩足を踏み出すだけで傷が痛む。
荒い呼吸を繰り返し過ぎて肺が痛むし、空気が乾燥しているからか喉が乾いて唾を呑むだけでも痛いし不快感がする。
心臓も痛い。酸欠で頭が重くてフラフラする。

それに耐えながら軋む足に鞭を打って走る、板を倒す、フェイントを掛けながらその回りをグルグル回って、血の足跡を残しながらまた走る。

それを繰り返して、僕のハンター統制時間が180秒を超えた知らせが来たのと同時に、やっとゲートが開いた事を知らせる警報音が聞こえた。

◆
試合は4逃げ。大成功だった。
「ノートン、大丈夫か？」
試合後、試合中のエミリー先生に代わって僕の治療をしているイライが言ってきた。

「そうだね。今君に代わってAが治療してくれたらもっと大丈夫だったかな」
グッと消毒液を染み込ませたガーゼを、イライは強く押し付けてきた。電気が走ったかのような地味な痛みが傷を駆け巡る。
「痛い痛い！ごめんって！」
叫ぶと彼は溜息を着いてそれを止める。
「通電後にザクっと一発やられたけど大丈夫だよ」
すると彼はもう一度大きく溜息を吐いた。
「だいぶ無茶をしているように見えたが。ゲートでの君の顔は魂が抜けている様に見えたぞ」
コトン、とピンセットを置く音が聞こえて、僕は肩の力を抜いた。もう消毒は終わったらしい。

「何故そんなにAに拘る？」
「もう大事な人を失いたくないから」
「だが！Aも言っていたぞ。君は兄の様に頼もしいが、助けて貰いっぱなしで申し訳ないと」
イライは声を荒らげた。だが僕は……。
「……ふふふ」
込み上げてくる笑いが止まらなかった。

そんな僕を気味が悪そうに見てくるイライに、言ってやった。

「僕は、Aに付け入る隙が欲しかったんだ！まるでお兄ちゃんみたいに頼れる存在になって、Aを油断させて、じわじわこっちに引きずり込む。それで気づいた頃には………って！ははは！良かった。僕のやってきた事は合ってた！じゃあここから次の段階に映って……」

イライの手から包帯が滑り落ちて、床を転がった。