【第5人格】籠の鳥【短編集】 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:15,414 hit

Ⅱ ページ11

「A」
不意に、名前を呼ばれた。
何か改善方法が見つかったのだろうか。
「何々？」
「少し気づいたことがあって」
私がジョゼフに向き直ると、急に顎を掴まれて引き寄せられた。
これからキスするのかってくらいにジョゼフの顔がとても近い位置にあって、顔が熱くなる。
綺麗な顔の輪郭やライトブルーの瞳がはっきり目に飛び込んできて、私は思わず目を逸らした。

「きゅ、急に何！？」
「いや、Aって写真の時も、話す時も、目を合わせてくれないよね」
確かに私は人とかと目を合わせて話したりするのが苦手だ。
「そうだけど！それが何？」
この状況と何の関係があるの？取り敢えず恥ずかしい。
「だから、こっちを向いてくれたら写真ももっといい物になると思って。だから、これは練習。僕の目をカメラのレンズだと思って」
ジョゼフは妖美に微笑んで言った。

「め、目を合わせるってどんくらい合わせればの？」
「うーん、じゃあ30秒位にしようか。じゃあスタート！」
合図が出されて、逸らしていた視線をもう一度ジョゼフに合わせた。
再びライトブルーの綺麗な瞳と目が合う。
途端に鼓動が早くなり、顔に熱が集中するのを感じた。

頭の中で数を数えながら呪文の様にこの目はカメラのレンズ……！と繰り返す。けれどダメだ。こんな綺麗なカメラ無いもん。余計に意識してしまう。

ジョゼフも私の方に目を合わせてきて、まるでキスする前の恋人みたいだ。唇を合わせる様に視線を合わせ、舌を絡める様に視線を絡める。……って私は一体何を考えているの！？鼓動がますます速くなるのを感じた。

すると急にジョゼフの目が優しく細まった。
分かった！これは30秒終わったよお疲れ様の微笑みだ！と、確信した瞬間に柔らかいモノが自分の唇に触れた。

……は？

再度ジョゼフの方を見ると、彼はペロリと舌舐めずりをした。
「いや、ごめん……。照れながらも頑張ってるAが可愛くて……。それにキスして欲しそうな顔してたし……」
頬を赤らめながら言うジョゼフを軽くぽかぽか殴りながら「この変態紳士！」と叫んだ。

全くの図星だった、だなんて口が裂けても言えない。

「ごめんごめん」と笑い、またいつもの彼に戻る。
「さあ、練習も終わった事だし、撮影を再開しようか」

再開、と言われても、一度熱くなった頬を冷ますのは難しい。
彼の言う完璧な写真が撮れたのは、まだまだ先の事だった。

【蛇足】
Aさんは写真家さんが好きで、写真家さんはそれに気づいています。