ヒーロー じゃない

10 side 紫耀 ページ10

ゆうちゃんだ…
ホンモノのゆうちゃんが
俺の腕の中に居る



二年ぶりで左手の甲にキス出来たのに

全っっ然っ 足りない
もっと、




まだ、もっと

二年前に我慢した時はもっと余裕だった

焦がれる
身体の奥から乾いてるのがわかって
ゆうちゃんの涙に唇を付けていく

左手は強く繋いだままだし
自由になる右手だけじゃ、何も出来ないのに

左手が繋がってて良かった
……って！


落ち着けって
とりあえず 落ち着け

日本に帰ってきた。うん、それは確かだな
俺の事は捨てたんじゃ無い……よな
よし、まだ怒ってるから今後はピアスを問い詰めてイロイロゆうちゃんで遊ぼう

もし、あっちで誰か男に頼っていたら……
それも 問い詰めていかないと、な


それでこのマンションは
帰ってきた、でいいんだよな？


「……ここに……住んでんの？」

頬の涙を唇で拭ったまま 聞く

すると、チラっと横目で俺を見て
小さく 頷いた


よしっ！
帰ってきたって事か……
そしたらさ、今がチャンスじゃね？





ずっと言いたかったセリフ言ってもいい？



「……送ってく。何階？」

ゆうちゃんのジェスチャーで示した階数を見て
非常階段を 手を繋いで 登る

20階とか言われないで良かった
ゆっくり歩ける範囲か


無機質な非常階段を二人の足音だけが響いて

一段ずつキュッと 手に力が入ったり
緩んだりしながら

泣き止んだけど涙で顔がぐちゃぐちゃになったゆうちゃんが
恥ずかしそうにハンカチで顔を覆いながら
いつまでも、眺める事が出来て

現実にゆうちゃんが、歩いていて


念願の 部屋まで、送れる
俺にとっては、特別で

手を繋いで家への階段を登る、俺たちが
特別であればいい、と




緩む口元を隠しながら
ゆうちゃんの歩幅に合わせてゆっくり登る



会いたかった、と言われたい
俺だけが好きなんだと、言われたい
俺が特別で、傍に居たい、って言われたい

二年前に抑えることが出来た この気持ちは
離れてた間に忘れようとしたのに
恨み言も、悪態もついたのに

他の人を 好きになろうともしたのに

膨れ上がってしまって
みぞおちが殴られた様に苦しくなった

息が止まるぐらい 全身を支配した



好きだと言わないように
口を閉じてるだけなのに

心臓からの鼓動だけで
会わない時と同じか、あるいは それ以上

苦しくなった

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