ヒーロー じゃない

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大魔王様が
帰国祝いで
ご飯に連れて行ってくれた
久しぶりやって言うのに

「今年のロックフェスに間に合って良かったわ〜。毎年間に合えばねじ込むつもりやったけど、余裕の時期に帰ってきてホンマえらいな！お嬢！」

仕事の話だった



辻マネに送って貰って、地下の駐車場で明日の連絡事項を聞いて
エレベーターに向かった

何を考えるでもなく
いつも通り、何も考えて無かった

だからエレベーターから平野さんが出てくるなんて、思ってもなくて


二年ぶりに目があったまま


扉が閉じた時に
息を止めていた事に気付いた








心臓がうるさい

呼吸の仕方が わからない


色んな出来事と 感情が込み上げてきて

視界が滲む

聞こえる嗚咽は 誰のものか









どんな顔して会えばいいん
こんな泣いた顔じゃ、きっと面倒くさい







視界の端に光る 非常階段のマーク



気がつけば飛び込んでて
背中で押し付けるように閉めて

力なく、ズルズルとしゃがみこんだ




身体を丸めて、膝をかかえて
嗚咽が漏れないように
唇を噛んで 口を手で覆って

息も漏らさないように

分厚い非常ドア越しになんて
平野さんの足跡さえ聞こえるわけないのに

聞きたくて


流れる涙を止めるために 瞳を閉じて



















ガンッ!!!!

背中に痛みと衝撃を感じて
ドアノブが頭を直撃して
前に 転がる


「……邪魔」

私が居るからドアが開かないのは わかる
だけど

「非常階段やのにドア塞ぐとか…危ない」


差し込む光の中には
夢じゃなくて、声が聞こえる平野さんで
私に向かって話しかける、本物の平野さんで

まさか 話しかけてくれるとは思わなくて




「…ねぇ、聞いてんの？退いてくれないと、コレ以上開かないんですけど」


唇を噛み締めて、口を塞いで
嗚咽を飲み込んで、精一杯 首を横に振る


今はムリ
次に仕事で会う時は、笑顔で挨拶するから
お願い 帰らせて


上から見下ろしていた平野さんが
しゃがんで

眉間に皺を寄せて
ぎゅっと目をつぶって

項垂れたように顔を隠して








「………もぅ…俺と…話すんのもヤダ？」


ぁ
なんて事言わせたんやろ

「………っ」

でも言える言葉が何か わかんない


「…地面…汚れるから立ち上がりなよ…嫌なら、俺もぅ行くから」


一生懸命、首を横に振ってるのに
違うって否定してるのに

下を向いて 私を見てくれない

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