ヒーロー じゃない

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「はい、カット！
チェック入りま〜す」


ふぅ、と止めていた呼吸を再開させる
モニター前に歩きながら、商品のワイヤレスイヤホンを外してADさんに渡す

有難くも、イヤホンのCMの撮影現場で

「OKです！以上で撮影終了になります！」


撮影終了の花束を受け取り
「お疲れ様」と拍手で送り出してくれるスタッフさんに挨拶を返して
メイク室で支度を済ませる





着替えとメイクを落として
競技ダンスのレッスンに向かう車の中


「辻さん…花屋さん…行きたいんですけど」

「今、寄るのか？いつまでに必要？」


「…帰るまでに」


撮影で貰った花束に顔を向けて
辻さんの返答を待つ


「りょーかい」

「あと、百均…かな？乾燥剤欲しいです」

「百均に乾燥剤てあったかな…何に使う用だ？帰るまでに、か？」


「…ドライフラワーにしようかと…思って」


今、花束を貰ってるから不自然じゃ無いよね
乾燥剤に花を埋めて電子レンジすれば、
簡易でドライフラワーが作れるって

平野さんから貰った薔薇を
枯らして捨てたくなかったから
朝から保存方法を調べていた


「りょーかい…それ用の乾燥剤は、お前がレッスンしてる間に用意しといてやるよ」


「…ありがとう、ございます」



照れくさい
めちゃくちゃ 照れくさい
でもそれを上回る位、心が温かい

問題は何も解決してないし
好感度だって 上がってない、けど

独りで考えなくていいのかも、とか
傍に居て、見つめてもいいのかも、とか

特別に、触れる事を許されたって事が
まだ 信じられなくて


ムズムズくる気持ちを 叫びたい
恋に落ちたバンザイ！とか
ズブズブに落ちて這い上がれる気がしない！
とか 意味も無く バカいっぱいに叫びたい



二年前とは違う胸の 甘い苦しみに
身体中が満たされて
昨夜の事が頭の中に浮かぶ度に にやけて

見た目は何も変わってないけど
身体の中の水分が、全部入れ替わってクリアになって
甘いナニかで満たされていって

その度に濃くなっていく気持ちが、一秒たつ度に増えていって

会えない時間の切なさは
二年前の比じゃない位に強くなって
強く切なくなるけど、甘くて

例え平野さんに触れることが“ 当たり前の日常 ”になって、慣れていったとしても

今ならどんな恋の歌も 歌えそうで

今ならどんな恋の役でも 演じられそうで





無敵 になったみたい… 何も怖くない

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