どうぞお気に召すまま 01(乙) ページ49
ｰｰｰｰ
｢はぁ･･･｣
俺は馴染みの店のカウンターで
大きくため息をついた。
｢またかよ、おっつん。｣
カウンター越しに笑う兄者。
俺のこの姿を何度も見ている彼は
いい加減諦めろと言わんばかりに苦笑している。
｢まじで脈ないって。どんだけ言っても
かわされてるんだろ？｣
｢そうなんだけどさー･･･｣
そう。
ずっと口説いている相手、Aちゃんの話。
一目惚れしてから俺は会う度に猛アタック。
だけどいくらアタックしても、
いくら口説いても
ヒラリとかわされて全然効いてない。
｢そういってもさ、諦められないんだって｣
｢ふぅん、じゃ頑張って｣
兄者も兄者で冷たいな。
まぁいいけど。
｢Aちゃん、久しぶり｣
｢お久しぶりです、おついちさん。
って言っても先週会ったばかりですよ｣
｢Aちゃんと一週間会えないだけで
俺寂しかったんだから｣
｢ふふ、そうなんですか？それなら何ヶ月も会えないと
どうなっちゃうんですかね｣
｢もうひどいなぁ｣
可笑しそうに口元を押さえるAちゃん。
ふっくらとした唇に
ほんのり塗られたグロスが色っぽい。
いつもだったら服を褒めたり、
ネイルを褒めたり
可愛いって言ったり
いろんな言葉をかけてアタックしまくってるんだけど
なんだか今日はそんな気分じゃない。
ふと･･･、言いすぎて本気に取られてないんじゃないか、
そんな疑問が浮かんだからだ。
美味しいご飯を食べて
二軒目におしゃれなバーに。
カウンターに置かれたキャンドル。
その灯にほんのり照らされたAちゃんの横顔。
(可愛い･･･)
いつもだったらすぐに口にする言葉。
だけど今日はそれを飲み込んだ。
たわいもない話をして、お酒を楽しんで。
そろそろいい時間だ。
｢おついちさん｣
グラスを傾けながらAちゃんが
ポツリと俺の名前を呟いた。
｢ん？｣
｢今夜は、まだひと言も口説きませんね｣
弧を描いた唇。
俺を捉える瞳。
なんだ、どうしたんだ突然。
今まで全然興味なさそうだったじゃない！
ドキドキと高鳴り始めた心臓。
｢あ、いや。別に口説かないつもりじゃなくて｣
｢ふふ、そうなんですか？
なら･･･この後、口説いてくれるんです？｣
ああもう！そうやって楽しそうに笑って･･･。
この後ってどういうことよ。
いつもは二軒目までしか･･･。
二軒目･･･までしか･･････。
そっと手に触れた華奢な指が
俺の期待を確かなものにした。
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作者名：そすんさー | 作成日時：2018年2月3日 0時
