びいどろの金魚玉 01(乙) ページ21
ｰｰｰｰ
｢A、髪伸びてきたね｣
横に座った彼は、背中にかかる私の髪を指で弄ぶ。
｢そうだね、この時期はちょっと暑いかも｣
｢切ってあげるよ｣
キラキラと眩しい夏の日差しに反射するびいどろ。
部屋を通り抜ける夏風。
チリンと涼し気な音を奏でる風鈴。
椅子に座り身をあずける。
彼の細い指がサラサラと髪を梳き
ハサミがうごくの規則的な音が響く。
パラパラと落ちる髪。
｢おついちさん、髪切るの上手ですよね｣
｢そう？
Aの髪はいつも切ってるから癖とか覚えたのかも。
もう美容院行かなくてもいいね｣
｢そうだね、でもカラーとかはやっぱり･･･｣
｢Aは黒髪が似合うよ？染めなくていいでしょ｣
｢そう？おついちさんがそう言うなら黒髪でいようかな｣
そんなたわいない話をしている間に
髪を切り終えたおついちさんが
肩についた髪を払ってくれた。
｢はい、おしまい。どうかな？｣
渡された手鏡で髪を確認する。
背中まであった髪は胸元くらいまで短くなって
すごくすっきり。
｢わっ、いい感じ！さすがおついちさん！｣
｢俺好みの髪になって良かった｣
｢うん、私もこの長さ好きだな｣
嬉しそうに目を細めるおついちさん。
その姿に私も嬉しくなってなんだか照れくさい。
｢あ、A。顔についてる髪払うからちょっと
目閉じててね｣
｢はーい｣
おついちさんがフェイスブラシで髪を払ってくれる。
｢はい、いいよ｣
｢ありがとうございます｣
そう言って目を開ければ目の前におついちさんの顔。
息遣いすら感じられるほどの距離がなくなって
ゆっくり唇が重なる。
頬に触れる大きな手。
｢他の人に触らせたくない｣
名残惜しそうに離れた唇。
そこから発せられた言葉と表情に嘘はない。
常磐色の瞳がそれを裏付けている。
まだ彼の温もりが残る唇を開いた。
吹き抜けた風がチリンと風鈴を鳴らす。
夏の日差しに光る金魚玉。
その中で泳ぐ金魚がこちらを見ていた。
ｰｰｰｰ
【浴衣】花萌葱 01(乙)→←深いコクをご堪能あれ 01(兄)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 155人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そすんさー | 作成日時：2018年7月22日 23時
