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三十話 つばき ページ30

一学期最後の日。
HRの後、私は椿さんと初めて会った日の空き地に来ていた。木陰に入ったベンチに座る。あの衝撃的な出会いがついこの間のことのように感じられる。

ジーワジーワと蝉の鳴く声が、時間がたったことを知らせていた。

少しの間ボーっとしていると

「熱中症になっちゃうよ」

どこからともなく現れた椿さんが、自然な流れで隣に座る。
夏だと言うのに、真っ黒な着物なんて暑くないんだろうか。


「明日から夏休みなんです」
「そう。友達とめいっぱい遊んでおいで」
「椿さん、明日の夏祭り一緒に行きませんか?」
「……僕は仲間と行くから」

「そう、ですか」

なんとなくもう椿さんとは会えないのだと思う。女の勘というか、血縁者の勘だ。

私は椿さんが今どんな状況にいて、どんなことをしてるか一切知らない。教えられてないということは、教えられないことか、椿さんの優しさからなんだろう。

私はそんな椿さんの優しさを振り払うことなんて出来ない。
何も知らない、危険人物な『ツバキ』なんて知らない無垢なあやめで居続けなくちゃならない。

だから聞かない。

「椿さん、また会えますよね?」
「……会えるといいね」

でも、せめて。

椿さんの手をきゅっと握る。

「私は、椿さんの幸せを願ってます」

どうか、どうか、椿さんがこれからも笑えるように。1人で寂しい思いをしないように。道を踏み外しても、誰かが正してくれますように。私は部外者だからなにもできないけど。だからせめて椿さんのために祈りたい。

すると椿さんは私の前髪をかき分け、軽くおでこにキスをした。そしてにっこりとわらった。

「僕も、願っているよ。」

顔が離れ、手が離れ、体が離れる。あっという間に椿さんはどこかに消え去ってしまった。

私は、ボロボロと泣き崩れながら、最後の別れを惜しんだ。

これから先、どうなっていくかは知らない。
学校が爆破されたり、夏なのに雪が降ってきたり、人が次々と暴動を起こしてたくさんの人が死ぬかもしれない。

そんな世界になっても、私は祈り続ける。

私だけのお狐様。
生きて、お狐様。




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設定タグ:サーヴァンプ , 椿 , 憂鬱組   
作品ジャンル:アニメ
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南条(プロフ) - 彩弥 Ayamiさん» コメントありがとうございます!気に入って頂けて嬉しいです。更新頑張って行こうと思います〜! (2020年11月4日 23時) (レス) id: 97d2c6287f (このIDを非表示/違反報告)
彩弥 Ayami(プロフ) - コメント失礼します…。やっぱり椿は可愛くてかっこいいですよね…♪ニヤニヤしながら読ませていただきました(笑)更新楽しみにしてますね! (2020年10月31日 20時) (レス) id: ea9a1583d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:南条 | 作成日時:2020年6月3日 11時

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