第21話 ページ24
「すみません…怜くんいますか」
今より一回りくらい小さく見えたA
本当はそんな事無いんだろうけどね
部室のドアから顔をのぞかせて、小さな声で言った
多分緊張してたんだと思う
その頃はまだ髪も短かった
その時部室には俺一人しかいなかった
だから、必然的に俺が受け取る事に
なった
「…うん、ありがとう。渡しておくね」
「あっ、はい…」
「…えーっと、名前は？」
「名前？……山崎Aです」
あ、そうそうこの時初めて名前知ったんだ
苗字を聞いても、すぐには山崎くんの事は思い浮かばなかった
中学生の時に会ったっきりだったしね
「…橘真琴…さん？」
「俺の名前知ってるの？！」
びっくりしたよなぁ
まさかミス岩鳶の娘から名前呼ばれるなんて思わなかったし
「あーっと…有名ですから、橘先輩」
目を泳がせて言った事、まだ覚えてる
結局何で知ってたか知らない
けど、怜から何か聞いてたのかなって思ってる
「じゃあ、よろしくお願いします」
その時の笑顔は、すごく可愛くて、綺麗で
初めての、その気持ちを知った
「…真琴先輩」
そんな事を考えてたらAに名前を呼ばれた
「何？」
「私、今カフェとか調べたんですけど…行きたい所見つけました」
嬉しそうな目で俺に言った
そんなAの手元には、ケータイがあった
わざわざ調べてくれたんだ
ごめんね、無計画で…
「へえ、どんな所？」
「次の次の駅で降りたら近いんですけど、モーニングセットが美味しいらしいです」
初めて見るなぁ
「新しく出来たんですよ、それに勉強するにも最適だと思って…私、邪魔しませんから…」
「…ふふっ、大丈夫だよ、ありがとう」
そんな所まで考えてくれたんだ
プシューッ
「うわ、結構乗りましたね」
「そうだね」
人が沢山入ってきて、車両は満席だ
「っと…席、どうぞ」
そう言ったのはAだった
相手は妊婦さん
結構お腹が大きい
「ありがとう…」
「いいえ」
「A、俺と代わって」
俺が立ってるわけにいかないだろ
「大丈夫ですよ」
「いいからいいから…」
立っていられると罪悪感が…
そう思って立った
「…ありがとうございます」
Aも空気を読んでくれたのか座ってくれた
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