その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ10)

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其ノ捌ページ10

あの日から私はいつも通り過ごしていて、子供たちは打倒社奉行様を掲げてオニカブトムシ探しをしていた。

すぐ飽きるかと思っていたのに意外と飽きなくてもうかれこれ１ヶ月。

私は飽きるまで付き合うつもりだけれど１ヶ月も探して理想の大きさのオニカブトムシに出会えないとは思っていなかった。

社奉行様は一体どれだけ探してあのオニカブトムシを手に入れたのかしら…。

「Aさんこんにちは。今日も元気に探していますね」

さっきいつも通り過ごしていると言ったけれど、少し変化はあった。

それは私たちが遊んでいるところに定期的に社奉行様が来ることだ。

「社奉行様、こんにちは。みんな今日も社奉行様を倒す為に頑張っていますよ」

流石に公務で忙しいのか毎日は来ないけれど週に2回は必ず来る。

私たちは毎日同じ場所にいるわけじゃないのに何故場所がわかるのかと聞くと、オニカブトムシがいそうな所に来ているだけですよと言われた。

オニカブトムシ探しをする時、危険がないように近くにはいるけれど私は見ているだけだ。

だから社奉行様が来た時2人で子供たちを見守りながら雑談をするのだ。

「そういえば彼らがオニカブトムシ探しを始めてもう１ヶ月も経ちますね」

社奉行様がよく飽きずにやりますねと微笑みながら言う。

「１ヶ月も探して大きいオニカブトムシが見つからないなんて社奉行様のオニカブトムシはどれだけの時間をかけて見つけたんですか？」

さっき考えていたことを聞いてみると社奉行様は少し笑った。

「そうですね、秘密です。大きいオニカブトムシに会えるかどうかは運ですから」

まさか相当時間がかかったのでは……？

私はあとどれくらいオニカブトムシ探しに付き合うのかしら………。

私が何となく察したのに気がついたのか話を変えてきた。

「ところで私と貴方がこうして話すようになってからも１ヶ月くらい経ちますね」

私と話すようになったのも、子供たちのオニカブトムシ探しに火がついたのも同じ日の話なのに改めてその話をしてくる社奉行様に首を傾げる。

「…？えぇ、そうですね」

「Aさんも知っていると思いますが、私は社奉行という名前ではないのですよ」

そこまで言われて何となく言いたいことが分かった。

「私の事、しっかり名前で呼んでください」