その雪寄草に、口付けを。 / 神里綾人 (ページ8)

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其ノ陸ページ8

「しゃ、しゃぶぎょーのお兄ちゃん、強すぎる…」

見事に全敗した子供たちはガックリ肩を落とす。

社奉行様は子供相手にも手加減は一切せず、余裕に表情で全勝した。

子供だからって手加減しないのはいいことなのか大人気ないのか…。

「ほらみんな元気出して。今度社奉行様に勝てるくらい大きなオニカブトムシを探しに行けばいいじゃない、打倒、社奉行様！」

子供たちを慰めていると社奉行様が声をかけてきた。

「おや？Aさんはやらないのですか？私はお相手出来ますよ」

「えいや私はオニカブトムシ取ってきていないので…」

断ろうとしたらオニカブトムシを目の前にずいっと出された。

「…え？」

「これ、Aねえちゃんの分だよ！今日見つけたやつで一番おっきいの！」

ニコッと笑って私に差し出す。

「あ、ありがとう…」

「ふふ、Aさんは愛されていますね」

「そうですね。私は幸せ者です」

「Aねえちゃん、これで僕たちの仇を討ってね！」

仇って…どこでそんな言葉を覚えたのかしらね。

少し笑って社奉行様をまっすぐ見る。

「やりましょう社奉行様。みんなに仇を討ってみせます！」

「いいですね。受けて立ちますよ」

こうして社奉行様VS私の虫相撲が始まった。

「そうっ！いけ！頑張れ！」

子供たちがくれたオニカブトムシは思いの外互角に戦えていた。

ひっくり返されそうになってもなんとか持ち堪える。

私はつい熱くなって夢中で応援していた。

「そのオニカブトムシ、なかなかやりますね。ですが私のオニカブトムシはこんなものではありませんよ」

そう言うと社奉行様のオニカブトムシは一気に突進してきて、その勢いで私のオニカブトムシはひっくり返されてしまった。

「ま、負けちゃった…。」

「ええー！このオニカブトムシでも勝てないのかよー！」

子供たちがブーブー言いだす。

「ごめんね、仇討てなかったね…」

しょぼんとして子供たちに謝ると子供たちが焦ったように言った。

「Aねえちゃんにせいじゃないよ！」

「今度もっとおっきなオニカブトムシ探しに行こう！打倒、しゃぶぎょーのお兄ちゃん！」

さっき私が慰めに言ったセリフがそっくりそのまま返ってくる。

「ふふふっそうね。探しに行こう」

初めてやった虫相撲は、思いの外楽しかった。